アリバダ(Arribada)という言葉をご存じだろうか。
数千頭のウミガメが一斉に砂浜へ
アリバダとは、ヒメウミガメ(Olive Ridley)が一斉に砂浜へ上陸して産卵する集団産卵現象のことだ。スペイン語で「到着」を意味する言葉で、一度の産卵シーズンに数千から数万頭のウミガメが同じ浜辺に押し寄せる。観察できるのは主にメキシコ、コスタリカ、パナマの太平洋岸に限られており、世界的に見ても非常に珍しい光景だ。
「アリバダが始まった」という知らせ
2015年9月、帰国まであと1ヶ月を切った頃、アリバダが発生したという知らせを受けた。コスタリカにいる間にこれを見ずして帰るわけにはいかない。即座に現地へ向かう決断をした。
問題は距離だった。任地のサンビートから産卵地までは、14時間以上のバス旅になる。それでも行った。
アリバダ、終わってた
翌朝、海岸へ向かった。
広大な黒砂の浜辺が広がっていた。超快晴だった。そして——ウミガメは、一頭もいなかった。
砂浜には卵の殻が無数に散らばっていた。アリバダは自分が現地に着く1週間ほど前に起きており、すでに産卵を終えたウミガメたちはとっくに海へ帰っていた。
ウミガメの卵を食べた
せっかくここまで来たのだからと、現地でウミガメの卵を食べてみることにした。ショットグラスにトマトジュースを注ぎ、そこにウミガメの卵を一個沈める——それが現地流の食べ方だ。
白身はドロドロとしていて固まらない。黄身は弾力があって怖かったので噛まずに丸呑みにした。
ウミガメの卵の採取や販売はコスタリカでは法律で禁止されているが、当時の太平洋岸の一部では地域住民による採取が慣例として残っていた。現在はより厳格な保護が進んでいる。
14時間かけて行ったのに、終わっていた。でも後悔はしていない。あの広大な黒砂の浜辺と、ついてきた犬と、丸呑みにしたウミガメの卵は、今も鮮明に覚えている。
コスタリカで一番遠くまで行った旅だった。
旅行ガイド(一般情報)
※本セクションは公開情報をもとに編集者が補足したものです。最新の保護区規則・観察ルールは現地・公式でご確認ください。
アリバダとは
- 意味: スペイン語で「到着」。ヒメウミガメ(オリーブリドリー、Lepidochelys olivacea)が同じ浜に数百〜数千頭規模で集団上陸して産卵する現象
- 主な産卵地: コスタリカではオスティオナル(Ostional)とナンシテ(Nancite)、その他インドのオリッサ州・メキシコのエスコビーリャなど世界数か所のみ
- 時期: 雨季(7〜12月頃)、新月から下弦の月の前後3〜10日間で発生することが多い
- 仕組み: 集団で卵を産むことで、捕食者に対する「数の希釈効果」で生存率を上げる進化的戦略
オスティオナル国立野生生物保護区
- 場所: グアナカステ州、太平洋岸の黒砂海岸。サンタクルス(Santa Cruz)から車で約1〜1.5時間
- 観察ルール: 規定ガイド同行、夜間ライト不可(赤色のみ)、カメに3m以上接近しない、卵に触れない
- 持続的利用制度: コスタリカは限定的に地域住民による卵採取を認める世界的にも珍しい持続的利用モデルを運用(最初の36時間以内、後続の卵が踏み潰されるぶんを採取)
アリバダを観るための心構え
- 発生の予測は完全ではない。月齢と現地ボランティアからの情報が手がかり
- 到着が遅れると本記事のように"終わっていた"こともある。柔軟な日程を組む
- 夜間の観察が中心、虫除け・長袖長ズボン・赤色フィルター付きライト推奨
- サンホセからは長距離移動、複数日確保が安全