「日本から荷物が届いた、けど開けてもらえない」
JICAボランティアとしてコスタリカに赴任して4ヶ月。2014年1月のある日、これが起きた。
配達員の不在票
きっかけは、危ない男だった。
配達員なのか、そうじゃないのかわからない男が、紙切れを一枚もって家を訪ねてきた。「サインしてくれ」と言うが、おばあさん(ホストアブエラ)は誰から送られたかも分からない荷物のサインを断った。
それたぶん、自分の荷物だ。家族が送ってくれたクリスマスプレゼントが届いたらしい。
パナマ国境の郵便局へ
サンビートには郵便局がない。荷物の引き取りには、パナマ国境の町パソカノアス(Paso Canoas)まで車で30分。
郵便局でまず800コロン(当時のレートで約160円)の取扱手数料。書類を書き終えた頃に、女性店員が満を持して言った。
「日本から来ているので、税関で審査が必要です」
なるほど、そうきたか。郵便局から徒歩3分の税関へ。
税関とコスタリカタイム
税関では確認作業が始まらない。コスタリカタイム(朝食+カフェ休憩)が発生し、職員はゆっくり戻ってきた。1時間ほど待ってから、ようやく段ボールが開けられる。
- 教科書(DELEスペイン語試験の対策本)
- スキバサミ
- お菓子
- そして——28個の餅
ここで一瞬、思考が止まった。なぜ、餅。
少し前から「日本の米が食べたい」と家族にこぼしていたのは確かだ。前年12月のクリスマス便でも、ビニール袋に直接入れられた米が「がんばって食べろ」のメッセージとともに届いていた。レンジ用パックですらないあれを乗り越えた1月、追い打ちで来たのが餅だった。たぶん家族の頭の中ではこういう連想だったと思う。
「米じゃ寂しい。日本のお正月といえば、餅だろ」
サンビートはまだ標高980mの山あいで涼しいが、ここパソカノアスはパナマ国境の海抜ゼロm近く、年中蒸し暑い。日本の真冬に出発した餅が、長時間のフライトで温められ、年明けの低地で保管されて——そりゃ香りも放つ。職員は怪訝な顔をしながら、それでも1個ずつ丁寧に数えてくれた。お正月用の餅、28個。論理的というより、家族の愛情の振り切り方を感じる構成だった。
その後の宣告は、こうだった。
「教科書とスキバサミは関税を払えば渡します。食品はサンホセの保健省(Ministerio de Salud)の許可証がないと渡せません」
これが、訓練所で聞いていた「税関で引っかかる」というやつか。
教科書とスキバサミの関税は5,300コロン(約1,100円)。受け取れる物だけ受け取って、餅と菓子は税関に置きっぱなし。「保健省で許可証だけ取って、またここに来てください」と職員。
6時間×往復はムリ
サンビートから保健省のあるサンホセまで、片道6時間。日帰りは不可能で、宿泊込みで往復2日かかる。さらに:
- 許可証の申請には手数料が必要
- 食品ひとつひとつに関税
- 経験者のブログによれば、「販売元から成分検査の証明書を送らせろ」「コスタリカの研究所で成分を調べろ」と言われたケースもあるらしい
28個の餅一つ一つに関税。香りを放つ餅。販売元の成分検査証明。
思わず両手で頭を抱えた。スペイン語にも llevarse las manos a la cabeza(手を頭に持っていく)というぴったりの表現がある。
職員は気の毒そうに、しかし制度上は仕方ない、という顔で「捨てたほうがいいんじゃないですか」と遠回しに勧めてきた。
帰り道、自分でも「捨てたほうがいい、捨てたほうがいい」と10回ぐらい小声で唱えていた。職員に対してではなく、たぶん、置いてきた餅たちに向かって。
学んだこと
- コスタリカの郵便事情: 国営郵便(Correos de Costa Rica)は配達網が首都圏中心で、地方では国境近くの大きな町まで取りに行く必要がある
- 食品輸入は本当に厳しい: 個人輸入でも保健省(Ministerio de Salud)の登録か許可が必要。これは食品安全のための制度で、JICAボランティアであっても例外はない
- 餅は危険物: 香り+長時間保管=判定不能、というのが税関の本音だったと思う
このあとも、コスタリカで暮らした2年間で、税関に荷物を止められたのは合計2回。2回目(2014年11月)は同じ手順を踏んでも諦めず、結果的にいくつかの食品は受け取れた。コツは「ラベルが英語かスペイン語で原材料が読める形式の市販品」を送ってもらうこと。手作りや日本語ラベルだけの商品は、まず通らない。
結局その日は、教科書とスキバサミだけを抱えて任地サンビートまでの長い道を戻った。28個の餅は、いまもパソカノアスの税関で——たぶんもう存在していない。
海外暮らしを始めて4ヶ月、「日本食は基本的に手に入らない」という当たり前の事実を、ようやく腹の底で理解した日だった。それからの自分は、コスタリカの米と豆(ガジョピント)を主食にして暮らすことに、ずいぶん上手くなったと思う。
旅行ガイド(一般情報)
※本セクションは公開情報をもとに編集者が補足したものです。最新の規則は現地・公式でご確認ください。
コスタリカへの食品輸入のルール
- 管轄: 保健省(Ministerio de Salud)と農牧省(MAG)。動物・植物製品はSENASA / SFEの管轄
- 登録番号: コスタリカ国内で流通する加工食品にはRSI(Registro Sanitario de alimentos)が必要。個人輸入でも一定量を超えると同様の手続きが求められる
- 国際郵便: Correos de Costa Ricaが配達するが、地方では国境郵便局(パソカノアスなど)に取りに行く必要があることが多い
- 関税: 関税+付加価値税(IVA, 13%)+取扱手数料が課される。価値申告書(Declaración Aduanera)の記載に注意
個人で日本から食品を送る場合のコツ
- 市販品のラベル付きを送る。原材料が英語またはスペイン語で表記されているもの
- 乾物中心: お茶、海苔、フリーズドライ味噌汁などは比較的通りやすい
- 生鮮・要冷蔵は不可。餅・カマボコ・鰹節など発酵・水分のある食品は止められやすい
- EMS / 国際小包の申告書には、
gift / personal use only / no commercial valueと明記 - 金額: USD100程度を超えると関税がかかる確率が一気に上がる
駐在・出張で日本食を確保したい場合
- 首都サンホセには日本食材を扱うアジア食材店がいくつかある(最新店舗情報は変わるため要確認)
- 大型スーパー(Auto Mercado、Walmartなど)の輸入コーナーで醤油・米・即席麺は手に入る
- 日本食レストラン: サンホセ市内には複数。任地隊員にとっては年2回の楽しみだった