週末、海でゆっくりしようと思って来ただけだった。下調べはしていない。正直に言うと、ここに国立公園があることすら知らなかった。
ウビタという町
ウビタ(Uvita)はコスタリカ南太平洋岸の小さな町だ。サンホセからバスで数時間、南へ下った海沿いにある。バスを降りて宿に荷物を置き、さて海へ行こう——としてすぐに気づいた。ビーチが遠い。
宿から浜まで、自転車で15分ほど。歩くには遠く、自転車だとちょうどいい。けれど帰り道は地味な上り坂で、汗だくになって宿に戻るくらいの距離だった。何も調べずに来た僕は、その距離感さえ現地で初めて知った。
「クジラの海」の国立公園
浜に着いてから、ここがマリノ・バジェナ国立公園(Parque Nacional Marino Ballena)だと知った。直訳すれば「クジラの海の国立公園」。名前のとおり、年間を通してイルカやクジラが見られるポイントらしい。
あとで調べると、ここにはザトウクジラが南半球からも北半球からもやってくる。世界でも珍しい、二つのクジラの群れが行き交う海なのだという。何も知らずに来た僕が、たまたまその海の前に立っていた。
引き潮の砂浜が、クジラの尾になる
この浜のいちばんの見どころは、潮が引いたときに現れる。砂浜が海に向かってまっすぐ伸び、その先端が左右に広がって——上から見るとクジラの尾びれの形になるのだ。スペイン語でも英語でも、そのまま「クジラの尾(Cola de Ballena / Whale's Tail)」と呼ばれている。
満ち潮のときはただの海だ。でも潮が引くと、砂の道が海の中へと伸びていき、その先では左右の両方から波が打ち寄せる。砂州の両側から寄せた波がぶつかる場所に立つのは、不思議な感覚だった。どっちが「沖」なのか分からなくなる。
ワニ注意、管理は看板一枚
河口の近くにはワニが出るらしい。「らしい」と書いたのは、安全管理がほぼ「PELIGRO(危険)」と書かれた看板一枚しかなかったからだ。柵もなければ、監視員もいない。看板を信じて近づかない。それが唯一の対策だった。
日本の感覚だと心配になるところだけれど、考えてみればそれが自然との距離なのかもしれない。危ないのは向こうじゃなくて、踏み込む側だ。
サーフィンは、車のある人の遊び
波はよかった。せっかくだからサーフィンでもしようか、と思っていた。でも、いいポイントは少し離れたところにあって、ボードを抱えて自転車で行ける距離ではない。サーフィンをしたいなら、自家用車で来る場所だった。
自転車一台の僕は、波打ち際で足を浸すくらいがちょうどよかった。海の入り口には、町のシンボルなのか、青いクジラのモニュメントが置かれていた。
「何もしない」を、全力でやる
結局この週末は、ほとんど何もしなかった。砂浜を歩いて、潮が引くのを眺めて、ランチを食べて、宿でだらだらする。川の淵に降りて、冷たい水に足を浸す。それだけだ。
予定を詰め込まないと損をした気になる旅もあるけれど、ここではその逆だった。何も計画していなかったからこそ、目の前の海と、引いていく潮と、ぶつかる波を、ただ眺めていられた。
いつかダイビングをしながら、海の中でクジラに会いに行きたい。
何も下調べせずに来た週末に、そう思える海と出会えただけで十分だった。
旅行ガイド(一般情報)
※本セクションは公開情報をもとに編集者が補足したものです。最新の入園規則・観察ルールは現地・公式でご確認ください。
マリノ・バジェナ国立公園(Parque Nacional Marino Ballena)
- 場所: プンタレナス州ウビタ、南太平洋岸「コスタ・バジェナ(Costa Ballena)」。サンホセから車で約4時間
- 意味: 「Ballena」はスペイン語でクジラ。コスタリカ初の海洋国立公園として1990年代に設立された
- クジラの尾(Cola de Ballena / Whale's Tail): 引き潮時に現れる砂州(トンボロ=陸繋砂州)。上空から見るとクジラの尾の形で、先端では両側から波が寄せる。観光できるのは干潮の前後
クジラ・イルカ・ホエールウォッチング
- ザトウクジラ: 南半球の群れ(おおむね7〜10月)と北半球の群れ(おおむね12〜4月)の両方が訪れる、世界でも珍しい海域
- イルカ: ハシナガイルカ・バンドウイルカなどが通年で見られることも
- ツアー: ボートによるホエール/ドルフィンウォッチングが盛ん。9月にはバジェナ(クジラ)の祭りも
行く前に知っておきたいこと
- 潮汐を確認: 「クジラの尾」を歩けるのは干潮の前後だけ。満潮時は水没する。潮見表は要チェック
- ビーチへの足: 町の中心からビーチ・各サーフポイントまで距離がある。レンタカーがあると動きやすい
- ワニ: 河口付近に生息。遊泳は指定エリアで、警告看板に従う
- 入園料: 国立公園のため入園ゲートで料金がかかる(外国人料金あり)
