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稚内の朝、空はようやく晴れた。今日は北海道ツーリングの本命——日本最北端の宗谷岬、ホタテの貝殻を敷き詰めた白い道、そしてライダーの聖地エサヌカ線を一気に走る。SR400に火を入れて、北乃宿を出発した。

稚内で朝のウニ・イクラ丼

宗谷岬に向かう前に、稚内の朝食。市場の食堂でウニ・イクラ丼を頂いた。雲丹がねっとりと甘く、イクラの塩気と合わさって、これが朝に食べられるのが北海道だなと思う。

稚内の市場の食堂
稚内の市場の食堂。壁いっぱいに貼られた色紙が、来た人たちの満足を物語っている。
稚内の朝食、ウニ・イクラ丼
ウニ・イクラ丼。雲丹の甘さとイクラの塩気がご飯に重なる、北海道の海の朝。

白い道——ホタテの貝殻が敷かれた農道

宗谷岬の手前にある白い道。宗谷丘陵に続くこの道は、ホタテの貝殻を砕いて敷き詰めた農道だ。白く輝く一本道が丘の稜線を越えて、その先に青い宗谷の海が広がる。晴れた日の青×白のコントラストがとにかく美しい。観光スポットというより、地元の農道なので静かで、人も少なかった。

白い道
白い道。ホタテ貝殻が敷き詰められた一本道が、宗谷の草原を抜けて海まで続く。

宗谷岬——日本最北端

白い道を抜けると、宗谷岬。「ここより北に、道はない」という事実が、妙にじんとくる。

宗谷岬の碑
日本最北端の地、宗谷岬。ここまで来た。
宗谷岬モニュメントとSR400
SR400と並んで「日本最北端の地」モニュメント。記念撮影。

エサヌカ線——ここで泣きそうになった

猿払村にあるエサヌカ線。北海道のライダーなら誰もが知るあの道に、ついに来た。

エサヌカ線
エサヌカ線。地平線まで一本の線が続いている。

写真で何度も見ていたけど、実際に立ってみると全然違う。地平線まで、本当にまっすぐ一本線が続いてる。右も左も原野と海。空が広すぎて、自分がどれだけちっぽけかがわかる。

エサヌカ線の牛と原野
エサヌカ線の脇では牛が草を食んでいる。原野の主役は彼ら。

しばらくバイクを止めて、ただ立ってた。何も言えなかった。風の音と、遠くで鳴く鳥の声だけ。正直に言うと、ちょっと泣きそうになった。「ああ、来てよかった」って、心の底から思った。

枝幸・ウスタイベ千畳岩

エサヌカ線を抜けて、オホーツク海沿いを南下。途中、枝幸町のウスタイベ千畳岩に立ち寄った。アイヌ語で「樹海湾の川」を意味するこの岬は、約2,000年前の遺跡に囲まれた絶景スポットだった。

ウスタイベ千畳岩
枝幸町・ウスタイベ千畳岩。アイヌ語で「樹海湾の川」。

紋別到着、カニの爪モニュメント

そのまま走って紋別に着いたのは夕方。海岸線にそびえるカニの爪モニュメントが「紋別に来た」を実感させる。月が出ていて、海の色がだんだん夕暮れに染まっていった。

紋別のカニの爪モニュメントとSR400
紋別のカニの爪モニュメント。夕方の海と月。

紋別の夜——オホーツクスカイタワーでヒグマと鉢合わせた

紋別プリンスホテルにチェックインしたあと、星を見ようと思ってオホーツクスカイタワーに向かった。市街地から少し離れた山の上にある観光案内所で、展望台からは紋別の港やオホーツク海が一望できる。夕焼けと、その後の星空。完璧な計画のはずだった。

展望台まで400m

山道は思ったより細く、舗装はされていたが、左は山の斜面、右はガードレール越しに谷。SR400で坂道を登っていく。エンジン音が森に吸い込まれていく。

展望台まであと400mくらいというところで、目の前に黒い影が現れた。

ヒグマだった。

SR400の音は届いていた、はずだ

距離にして30mほどか。まだ体格は大きくないヒグマだった。それでも十分に怖い。SR400の単気筒の音は森の中でもよく響く。クマはこちらに気づいていないわけがない。それなのに、動かない。道路のど真ん中で、こちらをじっと見ている。

頭の中で選択肢を回した。Uターンするには道幅が狭すぎる。坂道で方向転換しようとすればバランスを崩して転倒する可能性が高い。バイクから降りるのは論外だ。結局、できたのは「待つ」だけだった。

クマの脇を抜けた

体感で2〜3分。ようやくクマが動き始めた。ガードレール側、つまり右側に体を寄せていく。完全に道を空けたわけではないが、左側を抜けるスペースはある。

そのタイミングで、一気にアクセルを開けて速いスピードで抜けた。クマと数mの距離で並走する形になる。心臓が痛いほど鳴っていた。横目でクマを見た。クマはのんびりとしていた。こちらの緊張など知らないように。

展望台では、20分で帰った

展望台に着いてバイクを停めた。手が震えていた。本当はゆっくりして星を見るつもりだった。だが頭の中は「帰り道、またあのクマがいたらどうしよう」でいっぱいだった。

20分くらい展望台にいた。粘ったというより、どうやって帰ろうか悩んでいた、というほうが正しい。降りる道は一本しかない。あのクマが、まだ同じ道のどこかにいるかもしれない。日が暮れる前に降りようと決めた。これ以上暗くなったら、クマが動いていてもこちらが気づけない。展望台では、結局写真を1枚も撮らなかった。撮る気にもならなかった。

帰り道、同じ場所に同じクマがいた

下りはじめてからは、なるべくアクセルを吹かしながら自分の存在をアピールした。エンジン音、マフラーの響き、できるだけ大きく、できるだけ早めに。「ここに人間がいるぞ」と知らせ続けた。

それでも、例の場所に近づくと、本当にいた。同じ場所、同じ姿勢で。

「おいおいおいおい」と心の中で連呼した。同時に、これでダメならクマ鈴って意味あるんか、とも思った。SR400の単気筒をこれだけ吹かしても動かないクマに、小さな鈴の音が届くとは思えない。

クマは少しだけこちらを見たが、ゆっくり道を空けた。その脇を走り抜けた。今度は止まらず、振り返らず、一気に山を下りた。市街地の灯りが見えたとき、本気でホッとした。

あれから、熊スプレーを準備するようになった

あの夕方の経験は、しばらく忘れられなかった。SR400で抜けられたのは、ただ運がよかっただけだ。クマがあと一歩前に出ていたら、こちらの方向転換が間に合わなかったら、結果は違っていたかもしれない。

その後、XSR900で北海道を周回するときには、出発前にしっかり熊撃退スプレーを購入した。バイクで走っているときに使う場面はないかもしれない。でも、宿に着いてから周辺を散策するとき、停めたバイクの周りで休憩するとき——クマと人の距離が近い北海道では、装備しているという安心感そのものに意味がある。

関連記事: 知床ツーリングで実感した熊撃退スプレーの必要性|UDAP 12HP

紋別プリンスホテル

クマの夜から帰ってきて、紋別プリンスホテルでようやく落ち着いた。地元の海産物も豊富で、ライダー向けの宿泊プランもある。明日は朝にクマ牧場を覗いて、内陸の美瑛・富良野方面へ。

紋別プリンスホテル
紋別プリンスホテル。海沿いの大型ホテル。
エサヌカ線で泣きそうになって、紋別の夜にクマと鉢合わせる。北海道は、こんなに振り幅が大きい。

今回訪れた場所

1
白い道(宗谷丘陵)
北海道稚内市宗谷丘陵 / ホタテの貝殻を砕いて敷き詰めた農道。宗谷岬から車で約5分。
2
宗谷岬
北海道稚内市宗谷岬 / 日本最北端の地。稚内市街から国道238号で約30分。
3
エサヌカ線
北海道宗谷郡猿払村(猿払村道エサヌカ線) / 国道238号から分岐。原野と海に囲まれた直線道。
4
ウスタイベ千畳岩
北海道枝幸郡枝幸町岬町 / アイヌ語で「樹海湾の川」を意味する岬。海岸の岩棚と遺跡。
5
紋別カニの爪モニュメント
北海道紋別市海洋公園 / 紋別港のシンボル。流氷ガリンコ号乗り場の近く。
6
オホーツクスカイタワー(紋別観光案内所)
北海道紋別市花園町5丁目 / 展望台。アクセス山道はクマ生息域なので夕方〜夜の単独走行は注意。
7
紋別プリンスホテル
北海道紋別市新港町5丁目 / 海沿いのリゾートホテル。