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6月8日から18日まで、ドイツ・ボンで国連気候変動枠組条約の附属機関会合(SB64)が開かれ、閉幕しました。昨年11月にベレンで閉幕したCOP30の合意を条文と手続きに落とし込む、最初の本格的な作業会合です。公正移行では前進があった一方、中南米・カリブ地域(LAC)が最も重視する適応資金は文言をまとめられず、11月のCOP31に持ち越されました。閉幕から1か月、見えているのは「実施の年」の出足の鈍さです。

何が持ち越されたのか

最大の争点は「適応に関する世界全体の目標(GGA)」の文書に、COP30で合意した適応資金の3倍化をどう書き込むかでした。カナダ・ノルウェー・日本などは「資金は別の議題で扱うべきだ」として明記に反対し、アフリカ・グループ、AOSIS(小島嶼国連合)、後発開発途上国グループ、そして中南米のAILACは明記を求めました。結果、GGAのテキストは全体が角括弧(ブラケット)付きのまま、いわゆる「ルール16」でCOP31送りになりました(Carbon Brief)。緩和作業計画(MWP)も結論に至らず、適応基金の理事会構成をめぐる対立も先送りです。市民社会ネットワークは閉幕日の声明で、GGAの議論は事実上「ゼロからやり直し」になったと評しました。

唯一の前進は公正移行でした。「ベレン=アンタルヤ・グローバル公正移行メカニズム(BAM)」の草案が、目的・機能・ガバナンスまで含めて広い支持を得ています。ただし誰が資金を出し誰に説明責任を負うのかという核心は、まだ空欄です。

「3倍」という言葉の中身

COP30の「グローバル・ムチロン」決定が求めた3倍化とは、2021年のCOP26グラスゴーで置かれた年400億ドルの適応資金目標を2035年までに3倍にする、というものです。年1,200億ドル規模。ただ途上国側が求めていたのは「2025年の実績を基準に2030年までに」でした。基準年も達成年も後ろにずれた分、見かけほど野心的ではないという指摘があります(Carbon Brief分析)。

その「後退した3倍」ですら条文に書けなかった。ここが今回の実質です。適応は収益を生まず民間資金が入りにくいぶん公的資金の数字が重いのですが、欧州の援助削減と米国の交渉不参加が重なりました。

損失と損害の基金は、動いてはいる

適応と並ぶLACの関心事が「損失と損害対応基金(FRLD)」です。基金の公表値では2026年3月時点で27の拠出主体から総額8億2,206万ドルのプレッジが集まり、うち24が拠出契約に署名。2025〜26年の立ち上げ期に充てる「バルバドス実施モダリティ」の枠は2億5,000万ドルです。

動いてはいます。ただ桁が違う。カテゴリー5のハリケーン1つがカリブの一国のGDPの何割もの損害を出すことを思えば、基金の残高は一度の被災で消える水準です。枯渇懸念は繰り返し指摘され、7月末の理事会が次の焦点です。

中南米・カリブにとっての意味

この地域が適応資金にこだわるのは、被害の形がすでに具体的だからです。アマゾン流域の記録的干ばつ、アンデスの氷河後退による水資源の逼迫、カリブのハリケーン激甚化、沿岸低地の海面上昇。どれも排出削減では間に合わず、堤防・貯水・早期警戒への支出を今すぐ必要とします。

厄介なのは、約束された資金が現場に届くとは限らないことです。アマゾンへ向かうはずの気候資金が量ではなく経路の問題で滞留している構図は既報のとおりで、COP30後にブラジル国内の規制が緩んだ経緯とあわせて見る必要があります。

ただし地域は一枚岩ではありません。AILAC(コロンビア、チリ、コスタリカ、パナマなど)が資金の明記を強く求める一方、GGAの指標を誰が作るかではブラジルとグルポ・スールが「専門家主導か締約国主導か」で割れました。

アンタルヤまでの日程

COP31は2026年11月9日から20日まで、トルコのアンタルヤで開かれます。COP30で、トルコが開催国となりオーストラリアが交渉議長(President of negotiations)を務める分担が受け入れられました。一時は豪州開催が有力と伝えられましたが、この分担で決着しています。

そこまでの節目です。7月22〜23日、アゼルバイジャンのシャマフでハイレベル・リトリートが開かれ、交渉グループ議長と各国代表団長が非公式に顔を合わせます。ブラジル議長国は、COP30の合意文書に書き込めなかった「化石燃料からの脱却」と「森林減少の停止・反転」の2本のロードマップをCOP31で報告する予定です。NDC(国別削減目標)第3次提出の期限は2025年2月でしたが、提出分を束ねた事務局の統合報告が、アンタルヤで排出ギャップを示す材料になります。

筆者の視点

気候交渉を読むとき、いちばん実務的な指標は角括弧だと僕は思っています。合意できない語句は括弧に入ったまま次へ送られる。「何が決まったか」より「何が括弧のまま残ったか」のほうが、次の会議の難易度を正確に教えてくれます。今回、GGAは全文が括弧に入りました。

もう一つは、資金を「金額」と「経路」に分けて読むことです。3倍化は金額の話で、政治決着でしか動きません。一方、損失と損害基金の配分手続きは経路の話で、理事会レベルで淡々と進みます。LACに短期的に効くのは後者です。

追う数字を一つ挙げるなら、COP31までにFRLDの受領済み額(約束ではなく着金)がどこまで伸びるか。約束は増やしやすく、着金は増やしにくい。その差が、アンタルヤで途上国側が持ち出すいちばん強いカードになります。

用語メモ

Global Goal on Adaptation(GGA、適応に関する世界全体の目標)=パリ協定第7条に基づく適応の共通目標。Rule 16(ルール16)=合意に至らない議題を次回会合に自動で持ち越す手続き規則。mutirão(ムチロン)=ポルトガル語で共同作業・総出の助け合い。COP30の中核決定の名称に採られた。

決まったことより、括弧のまま残ったものを見る。GGAは全文が括弧の中に入ったまま、アンタルヤへ渡された。

参考リンク

※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。最新の数字・日程・手続きは各国政府や一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。