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中南米でいま、「国家ケアシステム(Sistema Nacional de Cuidados)」を立ち上げる動きが広がっている。子どもや高齢者、障害のある人の世話を、家庭の——とりわけ女性の——無償の負担にしてきた社会を、国が責任を持って支える「ケアシステム」へ変えていこう、という流れだ。CEPAL(国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会)が掲げる「ケアの社会(sociedad del cuidado)」は、その背景にある、より大きな理念だ。

無償ケアは、GDPの2割を超える

まず数字を見たい。CEPALの推計では、家庭で行われる無償の家事・ケア労働の経済価値は、地域平均でGDPの21.3%にのぼる。測定した国によっては15.9〜27.6%と幅があるが、いずれも経済の屋台骨と言っていい規模だ。そしてその74.5%を女性が担い、女性が無償ケアに費やす時間は男性のおよそ3倍。15歳未満の子どもがいる世帯では、約6割の女性が「家族の世話のため労働市場に出ていない」と答える。ケアは「家庭の私事」ではなく、経済そのものを下支えしている——この事実を可視化したことが、議論の出発点になっている。

「認める・減らす・分け合う」という設計図

ケアシステムの考え方の核は、無償ケアをめぐる三つの動詞だ。認める(reconocer)=その経済的価値を見えるようにする。減らす(reducir)=保育所やデイサービス、福祉用具で個々の負担そのものを軽くする。分け合う(redistribuir)=女性に偏った負担を、男性・国・企業・地域へ配り直す。これはフェミニスト経済学が育ててきた「3つのR」の枠組みで、家事や介護を“タダの仕事”ではなく社会を回す生産的労働として位置づけ直すところから始まる。

ケアを「権利」にし、社会保障の第四の柱へ

もう一つの柱が、ケアを権利として法に書き込むことだ。チリやメキシコの新しい法律・改革では、「ケアを受ける権利」「ケアをする権利」「セルフケアの権利」が並べて書かれる。CEPALはこれを年金・医療・所得保障に続く社会保障の「第四の柱」と位置づけ、地域の女性会議(2022年のブエノスアイレス合意、2024年のトラテロルコ合意)で各国が「ケアの社会」への移行を約束してきた。

「ケア」か「自立」か——障害の視点からの論点

ここで、障害政策の側から重要な留保が入る。ケアシステムの多くは、フェミニズムの「ケア経済」運動から育った。だが障害者権利条約(CRPD)の第19条は、障害のある人が地域で自立して暮らす権利を掲げ、どこで誰とどう暮らすかを本人が選ぶことを求める。ここで言う支援(apoyo)は、標準化された“お世話”ではなく、本人が選び・指示するパーソナルアシスタンス——自律と参加を可能にする支援だ。

問題は、「ケア(cuidado)」という言葉が、ともすれば“依存している人を世話する”という保護主義(パターナリズム)に滑りやすいことだ。自立生活運動は1960年代から「本人が采配する個人介助を権利として」と主張し、施設収容からの脱却を求めてきた。一方でフェミニズムは「では介助する側の労働と尊厳は誰が守るのか」と問う。この二つは衝突もする。実際、メキシコのケアシステム案は「障害者・高齢者の権利の視点が弱い」と当事者団体から批判された(2025年)。よいケアシステムとは、ケアする人の負担を社会で引き受けつつ、ケアされる人の自律も手放さない——その両立を設計に書き込めるかどうかにかかっている。

中南米が先を行く——ただし実装はこれから

意外かもしれないが、この分野では中南米が世界の先頭集団にいる。CEPALによれば、すでにブラジル、コロンビア、コスタリカ、キューバ、エクアドル、パナマ、ウルグアイ、ベネズエラの8か国で、ケアシステムや政策を定める法律ができている。とはいえ、法律と現実のあいだには距離がある。財源の確保、地方・農村への到達、ケアワーカーの待遇、そして当事者の自律の担保——どれも「これから」の宿題だ。

この動きが問うていること

無償のケアがGDPの2割を超えるという事実は、それを担ってきた人(多くは女性)の見えない持ち出しが、それだけ大きいということでもある。ケアを社会で分け合うのは、公正の問題だ。同時に、ケアされる人——とりわけ障害のある人——の自律をどう守るかは、人権の問題だ。中南米の実験は、この二つを一つの制度で抱えようとしている。同じ高齢化と介護の重さを抱える日本にとっても、けっして他人事ではない。

無償ケアはGDPの2割を超える。それを誰がどう分け合い、ケアされる人の自律をどう守るか——ケアシステムはその両方を問う。

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※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。制度の最新の内容・手続きは各国政府や一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。