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「ケアを国の仕事にする」と言っても、形はひとつではない。国の法律で全国システムをつくる国もあれば、街の中にケアの拠点を張りめぐらせる都市もある。先を行く三つ——ウルグアイ、チリ、コロンビアの首都ボゴタ——を、それぞれの設計と課題まで踏み込んで見ていく。

ウルグアイ:地域で最初の「統合ケアシステム」

口火を切ったのはウルグアイだ。2015年の法律(第19353号)で、地域初の統合的ケアシステム(SNIC)をつくった。対象は0〜12歳の子ども、障害のある人、64歳超で介助を要する高齢者、そして彼らをケアする人。保育施設、高齢者のデイセンター、そして注目すべき「パーソナルアシスタント(asistentes personales)」——重度の依存状態にある人が自分の生活を続けられるよう個人介助を付ける制度——を組み込んだ。これは前章で触れた「自立のための支援」に最も近い設計だ。ケアワーカーの労働条件や研修まで法に書き込み、国・自治体・民間・地域が役割分担する。ただし評価研究では、対象の線引きや財源、地方でのカバレッジに課題が残ると指摘されてきた。

チリ:ケアを社会保障の「第四の柱」に

チリは2025年、「チリ・クイダ(Chile Cuida)」法を成立させ、全国の支援・ケアシステム(SNAC)をつくった。これは、先行して各自治体で試した「地域ケア支援ネットワーク」の実践を全国制度へ引き上げたものだ。「ケアを受ける・する・自分をケアする」三つの権利を明記し、ケアを社会保障の「第四の柱」と位置づけた。社会開発・家族省が司令塔になる。歴史的だが、現地で繰り返し言われるのは「権利は法律に書けた。本当の難関は実装と財源だ」ということだ。

ボゴタ:街の中に「ケアのブロック」を

コロンビアの首都ボゴタは、国ではなく「街」のつくり方で攻めた。「マンサナス・デル・クイダド(ケアのブロック)」は、半径800メートルほどの区画にケアのサービスをまとめて置く仕組みで、発想は「15分都市」だ。設計の根っこには時間利用調査がある——女性が無償ケアにどれだけ時間を奪われているかを測り、その時間を返すために、施設を歩いて行ける距離に集めた。中身は三つ。ケアする人のための休息・学び直し・収入支援、子どものための保育や教育、そして「ケアは女の仕事」という規範を崩す文化の取り組みだ。ボゴタ市によれば、2025年時点でブロックは27か所、固定拠点のない地域には「ケアのバス」も走る。2021年から2025年6月までに、提供サービスは延べ670万件、対象は91万人を超える女性とその家族。研究者はこれを「都市政策としてのケア」という新しい領域として論じている。

三つの設計が照らすもの

ウルグアイは「国の制度」、チリは「権利の宣言」、ボゴタは「街のインフラ」。アプローチは違うが、いずれも無償ケアを家庭の——女性の——私的負担から、社会で分け合う公的な仕事へ引き上げようとしている。

ただ、共通の宿題もある。第一に財源と持続性。第二に、ケアワーカー自身の待遇——担い手を低賃金で使い回せば、負担を別の弱い立場へ移すだけになる。第三に、前章の論点だ。障害のある人にとって、それが“お世話”ではなく本人が采配する自立支援になっているか。メキシコのケアシステム案が当事者団体に「障害・高齢者の権利の視点が弱い」と批判されたように、設計を誤ると、ケアの名のもとに自律が後退しかねない。

それでも、障害のある人や高齢者にとって、ケアが「家族がなんとかするもの」から「社会が支えるもの」へ移るかどうかは、生活の質を根本から左右する。中南米のこの実験は、同じ問いを抱える国々——もちろん日本も——にとって、成功も失敗も含めて見ておく価値のある先行例だ。

国の制度、権利の宣言、街のインフラ——形は違えど、問いは一つ。ケアを社会で分け合いながら、ケアされる人の自律をどう守るか。

参考リンク

※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。制度の最新の内容・数字・手続きは各国政府や一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。