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チリのホルヘ・キロス財務相は7月5日、地元紙ラ・テルセラのインタビューで「6月に経済の転換点を迎えた」と述べ、2026年下半期の回復を宣言しました。政府は年間GDP成長率を2.2%と見込んでおり、縮小局面が続いてきたカスト政権発足後のチリ経済にとっては、就任1年目で最も楽観的な見通しです。回復の主役は銅。チリの輸出の柱が、久しぶりに強い追い風を受けています。

何が起きたか

調査会社フィッチは2026年の銅価格予測を21%引き上げ、トン当たり1万1,500ドルとしました。EVシフトと、人工知能向けデータセンターの建設ラッシュによる電力インフラ需要が需給を押し上げており、価格は2000年代の「スーパーサイクル」以来の高水準圏にあります。チリ・ペソ建て国債への外国資本の流入は2026年に入って記録的な規模に達しており、市場もこの回復シナリオを織り込み始めています。

鉱業投資の動きも具体的です。米フリーポート・マクモランとチリ国営コデルコは、北部エル・アブラ銅山の拡張計画(事業費75億ドル)を推進中で、2025〜2034年のチリ鉱業投資パイプライン全体では1,050億ドルに達するという試算もあります。

背景──「6月が転換点」の意味

カスト大統領は就任直後の施政方針演説で、治安と並んで財政緊縮を看板に掲げました。緊縮は短期的には需要を冷やすため、政権発足からの数か月、チリ経済は縮小基調が続いてきました。財務相が「6月が転換点」と言い切った背景には、月次経済活動指数(IMACEC)の縮小が6月で終わるという見立てがあります。緊縮の谷を抜けるタイミングで銅価格の追い風が重なった、というのが政権側の描くシナリオです。

もっとも、民間エコノミストの多くは2026年通年の成長率を1.3%前後とみており、政府見通しよりかなり慎重です。世界的な需要鈍化リスクや中国経済の減速懸念が消えていないなかで、銅価格が年後半も高水準を維持できるかどうかは、まだ誰にも断言できません。

論点──掘る力と、掘り続けられる条件

1,050億ドルという投資パイプラインが実際に動くかどうかは、価格だけでは決まりません。鉱業の拡大は、水資源の利用、先住民コミュニティの権利、環境影響評価と常に隣り合わせです。投資誘致に積極的なカスト政権のもとでも、この調整を省けば事業は司法や住民合意の段階で止まります。むしろ規制を「早く通す」ことより「もめない形で通す」ことが、長期の投資には効くはずです。

ラテンアメリカ全体を見れば、アルゼンチンのインフレ沈静化など各国の経済状況はまだら模様です。そのなかでチリは長年「新興市場のなかの安全地帯」と評されてきました。2026年後半の銅相場と国内投資の動向は、その評価を保てるかどうかのバロメーターになります。

筆者の視点

資源国の景気の話を読むとき、僕がいつも気にするのは「価格が運んでくる好況は、価格と一緒に去っていく」という単純な事実です。チリは他の資源国に比べれば、銅収入を安定化基金に積む仕組みなど、価格変動に備えた制度を早くから持ってきた国です。それでも、成長率2.2%と1.3%という政府と民間の見通しの差は、結局「銅がどこまで持つか」の読みの差にすぎません。

データセンターとEVが銅需要を押し上げるという新しい物語は魅力的ですが、物語が魅力的なときほど、財政や社会保障の計画は保守的な数字で組んでおくべきだと思います。好況の使い道にこそ、その国の成熟度が表れるからです。

用語メモ

cobre(コブレ)=銅。チリ経済を語る最重要単語です。punto de inflexión(プント・デ・インフレクシオン)=転換点。財務相の発言のキーワードです。IMACEC(イマセック)=チリ中央銀行が毎月公表する月次経済活動指数。GDPの月次版のように使われます。

価格が運んでくる好況は、価格と一緒に去っていく。問われているのは掘る力ではなく、掘り続けられる条件のほうだ。

参考リンク

※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。最新の数字・日程・手続きは各国政府や一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。