← 中南米ニュースに戻る

南米で長く左派の象徴だったチリが、大きく右へ舵を切った。2025年12月14日の決選投票で、右派のホセ・アントニオ・カストが58%を得て、共産党出身のジャネット・ハラを破った。2026年3月11日に就任したカスト政権は、独裁終結以降で最も右寄りと評される。掲げるのは移民と治安への強硬路線だ。

「国境シールド」という看板

カスト政権は就任後、移民対策と治安を前面に出した「国境シールド計画」を進めている。不法移民の取り締まり、犯罪への厳罰、そして大規模な強制送還。治安と移民への不安を背景に支持を集めた選挙公約を、政策に移している。5月19日には内閣改造も行われた。エルサルバドルのブケレ路線が、形を変えて南米の優等生にも届いた格好だ。

振り子はなぜ振れたか

チリは2019年の大規模デモから新憲法の議論へ進み、左派のボリッチ政権が社会改革を掲げてきた。その揺り戻しが今回の結果だ。物価高、治安の悪化、移民の急増への不満が積み重なり、有権者は「秩序」を選んだ。中南米全体でいま起きている右傾化の波が、チリでもはっきり表れている。

社会政策はどうなるか

気になるのは、左派政権下で築かれてきた社会政策の行方だ。チリは国家ケアシステム「チレ・クイダ(Chile Cuida)」など、ケアを公的に支える仕組みを地域で広げてきた。ケアを国の仕事にする取り組みの先進例のひとつだった。右派政権が財政規律と治安を優先すれば、この種の社会支出は見直しの対象になりやすい。

強い手は短期的に治安や移民の数字を動かすかもしれない。ただ、その過程で弱い立場の人の暮らしや、せっかく根づき始めたケアの制度がどう扱われるか。政権交代のたびに社会政策が振り回されると、いちばん困るのは制度に頼っている人だ。チリの数年は、右傾化の波が社会の土台をどこまで揺らすかの試金石になる。

右傾化の波は、積み上げてきた社会政策の土台を試している。

参考リンク

※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。最新の数字・日程・手続きは各国政府や一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。