2026年6月23日、ペルーでケイコ・フジモリの当選が事実上確定しました。開票率99.88%で約4万4,000票という僅差です。これで今年に入ってチリ・コロンビア・ペルーの三か国が相次いで右派・保守派の政権を選んだことになり、2023年末のアルゼンチンから続く流れがより鮮明になりました。「ラテンアメリカ右傾化の波」という言葉は一時的な流行語ではなく、直近18か月の有権者の選択として数字で示されつつあります。
四か国の選択が描く地図
アルゼンチンのハビエル・ミレイが大統領に就任したのは2023年12月でした。2024年初頭には財政均衡を掲げて政府支出を一気に削り、インフレを抑え込む荒療治を選びました。チリではガブリエル・ボリッチの左派政権が「支持率低迷と治安悪化」という評価に向き合う中、1月にホセ・アントニオ・カストが大統領選を制しました。コロンビアは6月21日の決選でアベラルド・デ・ラ・エスプリエラが1ポイント未満の差でグスタボ・ペトロの後継候補を破り、政権交代を確定させました。ペルーのフジモリは4度目の挑戦で初めて決選を勝ち切った形です。
四か国に共通して見えるのは「治安の悪化が票を動かした」という文脈です。コロンビアでは武装組織との『完全講和』を掲げたペトロ政権への不満が積み上がりました。ペルーでは日常的な街頭犯罪と政治の混乱が有権者の消去法を生みました。チリでは移民問題と暴力犯罪がカストへの支持を後押ししました。
「右傾化」の中身を問い直す
ただし、この四か国を一括りに「右傾化」と呼ぶことには留保が要ります。ミレイのリバタリアン的な小さな政府論と、カストの法と秩序を前面に出した保守主義は、経済政策の方向性がかなり違います。フジモリが掲げる「安定と秩序」は犯罪抑止を優先する現実主義であり、いわゆるイデオロギー的な右派とは距離があります。
むしろ各国の有権者が共通して『ノー』を突き付けたのは、「左派政権に任せたが暮らしが改善しなかった」という体験の積み重ねに近いものでした。チリのボリッチ、コロンビアのペトロ、ペルーのカスティジョ(2022年に議会で罷免)、ブラジルのルラと比べたとき、ルラだけが比較的高い支持率を維持している点も示唆的です。ブラジルは今のところ左傾化の波に飲まれておらず、2026年末に控える大統領選でルラ支持がどう動くかは、地域全体の次の焦点になります。
政策が試される段階へ
選挙の勝利は出発点にすぎません。コロンビアのエスプリエラはトランプが主導する『シールド・オブ・ザ・アメリカス』への参加を表明し、治安強化のための対米連携を政権の柱に据えました。ペルーのフジモリは鉱業・輸出主導の経済成長を打ち出しますが、与野党が複雑に入り組んだ議会との対話は容易ではありません。いずれも『選挙で勝つこと』と『政権を動かすこと』の間にある大きな溝を越える段階に入ります。
この種の保守回帰は、ラテンアメリカの政治史で繰り返されてきたパターンでもあります。左派政権が格差是正に着手しても財政負担と腐敗問題で支持を失い、右派に振れる──その往復が域内民主主義の不安定さの根にあると指摘する研究者は少なくありません。今回の波が単なるサイクルの反転なのか、それとも有権者が求める『安全と安定』への新しい応答を生むのか。それは選挙結果ではなく、これから作られる政策で分かります。
筆者の視点
四か国の結果を並べてみて僕がまず感じるのは、これを単純な「イデオロギーの右旋回」と読むのは早すぎる、ということです。経済政策で見ればミレイとカストとフジモリは別物で、共通言語があるとすれば『治安』と『現状への不満』のほうです。有権者は右派の理念に魅了されたというより、改善を実感できなかった現状に対して退場を命じた。どの僅差の結果も、熱狂よりは消去法に近い空気を映しているように見えます。
だからこそ、僕はこの先の数年を冷静に見たいと思っています。僅差で勝った政権は、分断された議会と二分された世論の上に立ちます。治安と経済という有権者の期待に短期間で応えられなければ、振り子は再び逆に振れる──ラテンアメリカの政治史はその往復を何度も見せてきました。特定の党派に肩入れするのではなく、約束された『安定と秩序』が制度として根づくのか、それとも次のサイクルの起点で終わるのか。その実効性を、結果ではなく時間で確かめていきたいと思います。
用語メモ
balotaje(バロタヘ)=決選投票。第1回投票で過半数に届かなかったとき、上位2候補で行う二回目の投票。ペルーやコロンビアの大統領選で採用されています。giro a la derecha(ヒロ・ア・ラ・デレチャ)=右への転回・右傾化。世論や選挙結果が保守・右派に傾く現象を指す表現。Escudo de las Américas(エスクード・デ・ラス・アメリカス=シールド・オブ・ザ・アメリカス)=米国主導とされる地域安全保障の枠組みで、ここではコロンビア新政権が参加を表明した対米連携を指します。
四か国の保守転換は、有権者が変化を選んだ事実を示すが、どんな変化を期待しているのかは、むしろこれから試される。
参考リンク
- Chile, Colombia, and Peru Go Conservative: What's Next for Latin America? | The Media Line — themedialine.org
- REACTION: Peru Runoff Is Too Close to Call (Again) | Americas Quarterly — americasquarterly.org
- A razor-thin victory, a divided nation: What awaits Peru's next president? | Atlantic Council — atlanticcouncil.org
- Latin America and the Caribbean Overview: June 2026 | ACLED — acleddata.com
※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。最新の数字・日程・手続きは各国政府や一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。