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2026年のいま、中南米では障害のある人への所得保障をめぐる動きが、はっきり分かれている。アルゼンチンは障害年金の対象を見直して給付を絞り込もうとし、メキシコは逆に、障害のある人への年金を国が守るべき権利として強めようとしている。これは単なる年金のニュースではない。働きにくい状況のなかで生活をどう支えるか、財政が苦しいときに誰への支援がまず見直されるのか——そういう問いに直結している。

アルゼンチンは年金を絞る

ミレイ政権は2026年4月、障害者向けの緊急法を大きく変える法案を議会に送った。Infobae の報道によれば、中身はかなり厳しい。労働不能を理由に非拠出制の年金を受け取っている人に、台帳への登録をやり直す「再登録」を義務づけ、期限内に手続きをしなければ給付を自動で止める。額も最低退職年金の70%に固定し、地域差や障害の重さに応じて上乗せする裁量をなくす。背景には、汚職疑惑のなかで国の障害庁そのものが解体された経緯がある。障害者団体は強く反発していて、上院でも通る見込みは薄いと見られているという。

メキシコは権利を書き込む

メキシコは逆を向いている。障害者の権利を国家が保障すると明記する改革が進み、子どもや弱い立場の人を優先するという。お金の面でも、恒久的な障害がある人向けの福祉年金が、2026年は2か月で3,300ペソ支払われる。

そもそも障害者年金とは

障害者年金とは、障害のために働くことが難しい人や収入を得にくい人に、国が生活費の一部を支える仕組みだ。誤解されやすいが、障害があるからといって、みんなが働けないわけではない。ただ、障害の種類や重さ、職場の環境、移動の手段、差別の有無によって、安定して働き続けるのが難しくなる人は多い。だから障害者年金は「働かない人への給付」ではなく、障害が生む生活上の不利を埋めるための所得保障だ。ここを取り違えると、制度の議論はすぐにこじれる。

効くのは、いちばん弱い人から

中南米の社会保障を考えるとき、「拠出制」と「非拠出制」の違いが効いてくる。拠出制は、働いているあいだに保険料を払い、その実績に応じて年金を受け取る仕組みで、安定した職に就いている人ほど使いやすい。一方の非拠出制は、十分に保険料を払えなかった人にも、国費で一定の給付をする。中南米は非正規雇用や自営業が多く、拠出の歴史を積めない人が大勢いる。障害があればなおさらだ。だから障害のある人にとっては、非拠出制が最後の命綱になりやすい。アルゼンチンの再登録の義務化や額の固定がまずこたえるのは、この、いちばん条件の悪い人たちだ。

しかも時間がない。中南米の高齢化は速く、働く100人が支える高齢者は、これから15人から40人へ増えていく。ILOCEPAL は、非正規の多いこの地域では拠出制だけでは支えきれないとして、非拠出制を広げるべきだと説く。アルゼンチンの絞り込みは、その流れにあえて逆らう賭けでもある。

「財政」と「権利」は地続きだ

アルゼンチンの言い分は、財政の持続と不正受給の是正だ。台帳をきれいにする、という理屈は分かる。ただ、その手続きのハードルが、当事者にはそのまま給付の打ち切りに化ける。目の見えない人、知的障害のある人、重い身体障害のある人にとって、「期限までに窓口で再登録」は、健常者が思うよりずっと高い壁だ。台帳を正すことと、当事者を守ること。両立させるのも、ぶつけ合うのも、結局は制度の設計しだいだと思う。

メキシコのやり方も、手厚いぶん宿題が残る。権利を憲法に書くことと、その額をこの先も払い続けられることは、別の話だからだ。

制度は、あるだけでは足りない

いちばん大事なのは、制度が「給付があるかどうか」より「そこまでたどり着けるかどうか」で決まる、という点だ。装具ひとつでも、申請書類や判定、窓口までの距離で、届くかどうかは大きく変わる。アルゼンチンの再登録義務化は、まさにその「たどり着けなさ」を増やす方向に見える。

だから、障害者年金をめぐる中南米の動きは、「財政か、権利か」という単純な対立ではない。制度を持続させながら、いちばん支援が要る人をどう守るか——問われているのは、その設計だ。制度は、あるだけでは足りない。必要な人に届いて、はじめて意味を持つ。

制度は「いくら出すか」より、「そこに届くかどうか」で決まる。

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参考リンク

※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。制度の最新の内容・金額・手続きは各国政府の一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。