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エクアドルのダニエル・ノボア大統領は7月1日、国内武力紛争の再宣言を盛り込んだ大統領令を発令しました。その内容は、これまでの治安政策から一歩踏み込んだものです。協力国の外国軍人に免責を付与し、国内の治安作戦に参加したエクアドルの軍・警察・民間人への恩赦(インドゥルト)を大統領の権限で与えられるとしました。法律家たちが「裁量が広すぎる」と声を上げ始めたのは、当然の反応と言えます。

何が起きたか

エクアドルはこの2年あまりで、同じ「国内武力紛争」の宣言を三度行ったことになります。2024年1月に始まった最初の宣言はその後更新を繰り返し、今回7月1日の大統領令はその第三版にあたります。並行して、6月18日に発令された非常事態宣言(大統領令423号)が10州・3地区を60日間の対象としており、二重の特別法制が同時に走っている状態です。

今回の令で新しいのは、協力国の外国軍人が治安作戦に参加できると明示した点です。エクアドルはすでに米国との国境警備協力協定に署名し、半潜水式の麻薬密輸船の秘密建造拠点を摘発するなど、外国勢力との連携は実態として進んでいました。ただ、その国内法上の根拠はあいまいなままだった。今回の令は、その法的な根拠を後から整えた形になります。

背景──治安の悪化と「例外」の常態化

政府が対応を急ぐ背景には、実際の暴力の深刻化があります。マナビ州など暴力が集中する地域では、ロス・チョネロスとロス・ロボスという二大ギャングの縄張り争いが激化しており、ACLED(武力紛争・事件データプロジェクト)によれば、6月はギャングによる民間人への暴力が記録開始の2022年以来最多となりました。

一方で、ノボア政権は2024年1月の就任直後から治安の非常事態を繰り返し宣言してきました。正規の議会審議を経ない大統領令が積み重なり、いまや「例外」が常態になりつつあります。これはエクアドル固有の現象ではなく、エルサルバドルのブケレ政権に始まり地域全体へ広がる「マノ・ドゥラ(鉄拳)」路線の中で、強権的な治安手法の法的な外皮が薄くなっていく傾向の一例です。

論点──「インドゥルト」の射程

法学者パブロ・コロマは「どのような状況で恩赦を与えるのかが規定されていない」と指摘しています。これは小さな欠陥ではありません。恩赦の要件があいまいなまま大統領の裁量に委ねられれば、治安作戦中に起きた人権侵害を事後的に免責するために使われるリスクが生まれます。国際人道法の観点からも、外国軍人が民間人に被害を与えた場合に誰がどの法廷で責任を負うのかが不明確です。

緊急性の高い治安危機があること自体は事実です。しかし、緊急性が法的な瑕疵(かし)の許容理由になるかどうかは、まったく別の問題です。外国軍の参加が実際の作戦にまで及ぶのか、恩赦が実際に適用されるのかは今後次第ですが、法的な枠組みが先に整えられたという事実は重く残ります。

筆者の視点

治安と法治のトレードオフという古い問いに、エクアドルは今、最も切迫した形で直面しています。僕がこの大統領令で立ち止まったのは、「免責」と「恩赦」という言葉の使われ方です。制度というものは、例外規定こそが本体だと言われることがあります。平時のルールがどれだけ立派でも、例外がいつ・誰の判断で発動されるかがあいまいなら、実際に人々を守るのは平時のルールではなく、その例外の側だからです。

要件を定めない恩赦の権限は、使われなくても効果を持ちます。治安作戦の現場にいる人間が「最終的には免責されうる」と知っていること自体が、行動の水準を変えてしまう。それを防ぐ唯一の方法は、例外の要件と検証手続きを先に書き込んでおくことです。エクアドルの議会と裁判所がこの令をどう扱うかは、同じ道を歩み始めた近隣諸国にとっての先例にもなります。

用語メモ

conflicto armado interno(コンフリクト・アルマード・インテルノ)=国内武力紛争。この認定により、軍を国内の治安作戦に投入する法的根拠が生まれます。indulto(インドゥルト)=恩赦。有罪判決や訴追を免除する大統領の権限です。estado de excepción(エスタード・デ・エクセプシオン)=非常事態宣言。憲法上の権利の一部を一時的に制限できる制度です。

緊急事態は終わらないのではない。緊急事態が、新しい常態になっていくのだ。

参考リンク

※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。最新の数字・日程・手続きは各国政府や一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。