2026年6月、メキシコの故意による殺人が2015年以来11年ぶりの低水準を記録しました。7月14日に公表された治安報告(SESNSP/SSPC)によると、1日あたりの殺人件数はロペス・オブラドール政権末期にあたる2024年9月(86.9件)から2026年6月(45.4件)にかけて48%減少しました。前年同月比では32.5%減、2026年上半期の累計でも前年同期比30.1%減です。治安が繰り返し選挙の争点になるメキシコで、政権にとって無視できない数字です。
何がここまで減らしたのか
シェインバウム政権の治安戦略は、前任のロペス・オブラドール路線を継承しつつ、国家警備隊(Guardia Nacional)の現場展開と、情報・捜査機能の強化を組み合わせた形をとります。全国では高衝撃犯罪全体でも約32%の減少(2024年9月→2026年6月)が報告され、殺人だけでなく誘拐や武装強盗でも下落が続いています。CJNG(ハリスコ新世代カルテル)の勢力圏として長年問題視されてきたミチョアカン州でも、現政権下(2025年1月→2026年6月)で殺人の日次平均が46%減りました(ただし6月単月はやや反発しています)。
政府は成果の背景として、連邦・州・市町村の情報共有の仕組みを挙げます。「暴力の発生源」とされる幹部の摘発に資源を優先的に投じ、組織の再編成を防ぐ戦略だと説明しています。
残る恐喝という難題
しかし数字の明るさとは裏腹に、シェインバウム自身が就任1年を振り返る場で「唯一、下げられていない犯罪が恐喝だ」と認めました。恐喝は中小企業や市場の零細商人、運送事業者を標的に全国で横行し、人々の体感治安を大きく左右します。
2025年7月から2026年6月にかけて展開した「恐喝対策国家戦略」では、容疑者1,674人を拘束したと発表されています。連邦検察との連携強化、匿名通報ダイヤル(089)、恐喝関連口座の凍結、情報統合の仕組みなどを組み合わせた施策で一定の検挙実績を出しましたが、現場からは「逮捕しても組織がすぐ補充要員を送り込む」という指摘が絶えません。7月初旬のミチョアカン視察でも、恐喝の根絶が最優先課題として繰り返し語られました。
数字と体感のギャップをどう読むか
殺人件数の減少は統計的な事実であり、政策評価の出発点として意味があります。一方、恐喝や脅迫は被害者が報復を恐れて届け出ないケースが多く、公式統計に表れにくい犯罪です。治安改善の恩恵が一部の層にとどまり、脆弱な立場の人々に届いていないとすれば、統計と体感の乖離はそのまま次の政治リスクになります。
2027年6月には連邦議会の中間選挙(下院全議席の改選)も控えます。与党MORENAは治安実績を前面に出す戦略を取るでしょうが、恐喝問題が攻撃の的になることはほぼ確実です。数字は改善した。だが「安全になった」という実感を国民が持てるかどうかは、また別の問いです。ウォッチすべきは、殺人統計の推移そのものより、届出の少ない恐喝の被害がどこまで可視化されるかだと思います。
殺人件数の減少は出発点にすぎない。恐喝が消えない限り、治安改善が「完成した」とは言えない。
参考リンク
- Sheinbaum destaca reducción de 48% en homicidios dolosos; junio de 2026, la cifra más baja desde 2015 | Vanguardia — vanguardia.com.mx
- Principal objetivo en Michoacán, reducir la extorsión: Sheinbaum | La Jornada — jornada.com.mx
- Sheinbaum identifies curbing extortion as a top security challenge for 2026 | Mexico News Daily — mexiconewsdaily.com
- The Hole in Mexico's Security Strategy | Foreign Affairs — foreignaffairs.com
※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。最新の数字・日程・手続きは各国政府や一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。