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6月3日、汎米保健機構(PAHO)のバルボーザ事務局長が、米州機構(OAS)の常任理事会で2025年の年次報告を発表しました。報告そのものは成果を並べた前向きな内容でしたが、そこには中南米の保健体制の今後を左右しかねない一つの数字が含まれていました。ほかでもない、PAHO自身の予算が次の2年間で19%削られる、というのです。

19%という削減の重さ

2026〜2027年の予算期間において、PAHOの予算は前期比で19%減となりました。固定ポストの削減や、出張の抑制、採用の絞り込みといったコスト圧縮が続くとされ、事実上の人員縮小をともないます。PAHOは内部改革「PAHO Forward 3.0」によって2025年に700万ドル超の効率化を実現したとしていますが、その節約をはるかに上回る規模の予算が失われる計算です。

PAHOは世界保健機関(WHO)のアメリカ地域事務局として、域内37の国と地域で感染症対策や母子保健、医療制度の強化に関わってきました。予算の削減は、これらのプログラムをどれだけの規模とスピードで続けられるかに、そのままはね返ります。

なぜ、いまなのか

背景には、WHO本体が直面している資金難があります。最大の拠出国だった米国が拠出を絞り、保健分野の国際協力から距離を置く流れのなかで、その余波が地域事務局であるPAHOにも及んでいます。国際保健の「土台」を支えてきた資金が細るとき、最初に影響を受けるのは、自前の財源が限られた国々の現場です。

USAID撤退と重なる「二重の縮小」

この削減が重く感じられるのは、すでに別の撤退が進んでいるからです。2025年に大幅縮小したUSAID(米国際開発庁)は、中南米の公衆衛生研究や疾病対策の資金基盤を直撃しました(→ 外部資金が消えるとき|USAIDの撤退が突きつけた問い)。USAIDが抜けた穴をPAHOが補う、という道筋も、そのPAHO自身が縮むとなれば描きにくくなります。支援の出し手が同時に細る「二重の縮小」が、いま中南米の保健インフラに起きつつあります。

一方で、明るい数字もあります。PAHO・世界銀行・米州開発銀行(IDB)が共同で進める「米州一次医療アライアンス」は、発足から2年で10億ドル超の資源動員を実現しました。2026年5月にはペルーが新たに加わり、加盟は10カ国に広がっています。ただし資金の多くは世銀やIDBが主導しており、PAHOが担うのは技術支援と調整の部分です。予算削減がこの調整機能にどう響くかは、注視が必要です(中南米のケアと社会保障の文脈は → 中南米の「国家ケアシステム」とは何か)。

筆者の視点|「指針」は財源と人がそろって初めて動く

補装具費の支給制度や社会保障のしくみを見てきた立場からいうと、国際機関が出す政策ガイダンスは、それ単体では現場を変えません。PAHOは今年、長期ケアに関する政策の手引きを公表し、65歳以上の約14.4%・およそ800万人が日常的な支援を要するという地域の実態を示しました(→ 800万人の「支えられる側」)。高齢化と障害のある人々への支援という観点で、こうした指針はとても重要です。けれども、指針を各国の施策に落とし込むには、それを支える財源と人員が要ります。予算が縮むなかで、指針は出るのに実装が追いつかない——そんな空白がいちばん怖いところだと、僕は思っています。

感染者ゼロのうちにエボラへの備えを固めるような「先回りの公衆衛生」(→ 感染者ゼロでもアメリカ大陸が動いた)も、平時の体力があってこそ成り立ちます。USAIDとPAHOの二重の縮小は、中南米の保健体制が「誰が支えるのか」という問いに、もう一度正面から向き合わざるをえない局面に来たことを意味しています。

用語メモ

PAHO(汎米保健機構)=WHOのアメリカ地域事務局。1902年設立で、域内37の国・地域をカバーします。
biennium(バイエニアム)=2年をひとまとまりとする予算期間。WHO/PAHOは2年ごとに予算を組みます。

指針は出るのに、それを実装する財源と人員が追いつかない——予算が縮むときにいちばん怖いのは、その空白です。

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参考リンク

※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。最新の数字・日程・手続きは各国政府や一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。