← 中南米ニュースに戻る

ペルーのアマゾンで、違法な金採掘の前線が広がっています。AP通信などが2026年2月に伝えた現地調査によると、長年の中心地だった南部のマドレ・デ・ディオス州を越えて、採掘がより遠隔のロレト州やウカヤリ州など、これまで手つかずだった地域にまで及んでいます。背景には、高止まりする金価格があります。森林破壊と水銀汚染、そして先住民の暮らしへの脅威が、同時に深刻化している状況です。

金価格という経済ドライバー

AP通信の報道によると、2026年の金相場は1トロイオンスあたり約2000ドル前後で推移しており、これは10年前のおよそ2倍の水準にあたります。価格が高ければ高いほど、輸送や設営にコストのかかる奥地でも採算が合うようになります。だからこそ、採掘業者はこれまで割に合わなかった未踏の森へと前線を押し進めています。

違法に採掘された金は国境を越えて流通し、国際的な金需要そのものが採掘の資金源になっている、という構図が指摘されています。市場のシグナルとしての価格が、結果として遠いアマゾンの森に採掘圧力を送り込んでいるかたちです。

水銀汚染と森林破壊

採掘現場では、ブルドーザーで森林を剥ぎ取り、氾濫原を掘削し、浮遊式のドレッジャー(採掘船)で川底の土砂ごと金粒を吸い上げます。その後に残るのは、水銀が溶け込んだよどんだ水たまりと、削り取られた河岸です。金を抽出するために使われる水銀は強い毒性を持ち、神経系への深刻な影響が知られています。

水銀は河川の生態系に入り込み、魚を経て食物連鎖を上っていきます。アマゾンの川沿いに暮らす先住民コミュニティでは魚が食生活の大きな部分を占めるため、汚染された魚を通じた健康被害が懸念されています。さらに、採掘キャンプや作業道が奥地へ延びるとともに、暴力や組織犯罪も入り込み、土地を守ろうとする先住民の指導者が近年数多く殺害されたとも報じられています。

政府の対応と限界

ペルー政府は違法採掘への取り締まりを進めており、採掘機材の没収・破壊といった成果も公表しています。違法採掘対策を担う政府高官も、採掘が南部から北部へと広がっている事実を認めています。

ただし現地の環境関係者からは、地上での取り締まりは依然として手薄だという指摘が続いています。隣国ブラジルでは衛星データを使った森林監視の取り組みが進む一方、ペルーでは透明な監視体制をどう築くかが課題として残っています。そして、金価格の高止まりが続くかぎり、採掘圧力の封じ込めはますます難しくなっていきます。

筆者の視点

僕がこのニュースで気になるのは、問題の根っこが「現地の悪意」ではなく、遠く離れた市場の価格にあるという点です。金が高いから奥地でも採算が合う——この一行が、未踏の森に機材と水銀を呼び込んでいます。取り締まりは大切ですが、地上の警察力だけで価格のシグナルに対抗するのは構造的に分が悪い、というのが僕の見立てです。

もう一つは、被害が「環境」と「人」の両方にまたがっている点です。森林破壊や水銀汚染は環境の話に見えますが、その先にいるのは魚を主食とする人々であり、土地を守ろうとして命を落とす指導者たちです。衛星監視やトレーサビリティ(流通経路の追跡)の強化に加えて、需要側の国がどこまで責任を引き受けるか。アマゾンの地図が塗り替えられる速度に、制度が追いつけるかどうかが問われています。

用語メモ

Madre de Dios(マドレ・デ・ディオス)はペルー南東部のアマゾン地域で、違法金採掘の長年の中心地です。直訳すると「神の母」。dragas(ドラガス=ドレッジャー)は川底の土砂を吸い上げる浮遊式の採掘装置を指します。mercurio(メルクリオ)は水銀。スペイン語のニュースで採掘問題を読むときに頻出する語です。

2000ドルの金価格は市場のシグナルですが、そのシグナルがアマゾンに送るのは採掘機材と水銀の波です。

📚 もっと深く知る|関連書籍

このテーマをさらに掘り下げたい人へ。Amazonで関連書籍を探せます。

関連書籍を探す(Amazon)→

本記事はAmazonアソシエイトリンクを含みます。詳細はプライバシーポリシーをご覧ください。

参考リンク

※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。最新の数字・日程・手続きは各国政府や一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。