← 中南米ニュースに戻る

7月1日、リマの高等裁判所が中国系の巨大港湾「チャンカイ港」をめぐる訴訟で判断を示しました。運営会社コスコ・シッピング・ポーツ・チャンカイ・ペルーのアンパロ訴訟を却下し、国のインフラ規制機関オシトラン(OSITRAN)が同港を監督できると確認する内容で、半年前の一審判断を覆すものです。ケイコ・フジモリ氏の大統領就任まであと1週間余り。新政権はこの未決着の案件を初日から引き継ぎます。

何が起きたか──一審を覆した7月の判断

争点は、チャンカイ港が国の港湾規制の枠内にあるかどうかでした。2026年1月29日の一審判決は、ペルー当局が同港に対して「規制・監督・監査・制裁の権限」を行使しないよう命じ、事実上オシトランを締め出す内容でした。オシトランは即座に不服を申し立て、7月1日、リマ高等裁判所第二憲法法廷がこれを無効として規制機関の権限を追認しました(Infobae Perú)。

オシトラン側の説明はこうです。チャンカイ港は「専用港」ではなく公共インフラであり、コスコに認められた排他性は曳船など一部の中間サービスに限られる。港そのものは、あらゆる利用者の貨物を扱う義務がある——。一方コスコ側は、約13億ドルの投資を決めた条件が事後に変えられたと主張し、憲法裁判所への上訴を表明しました(MundoMarítimo)。決着はまだ先です。

背景──2年目に入った港と、その実力

チャンカイ港はリマの北約80キロの深水港で、コスコ・シッピング・ポーツが株式の60%、ペルーの鉱山会社ボルカンが40%を保有します。2024年11月14日、習近平国家主席の訪問に合わせて開港しました。第一期の設計能力は年100万TEU(20フィートコンテナ換算)に加えバルク貨物600万トン、車両16万台で、段階的な総投資額は最大35億ドル規模とされます(COSCO SHIPPING Ports)。

ただし実績はまだ設計値に届きません。初のフル稼働年となった2025年の取扱量は報道により幅がありますが29万〜34万TEU程度、設計値の3分の1前後です。それでもペルーの2025年の輸出総額は約900億ドルと過去最高(前年比21%増)で、押し上げ要因のひとつにチャンカイの稼働が挙げられています。

米国が神経を尖らせてきた理由

ワシントンが注視してきたのは、規模そのものより「だれが管理しているか」という点です。1月の一審判決の直後、米国務省西半球局は「ペルーが自国最大級の港を監督できなくなるおそれがある」と述べ、「安価な中国マネーは主権の代償を伴う」という表現で警告しました(NPR、2026年2月12日)。中国外務省はこれを事実無根として強く反発しています。

懸念は港湾一つにとどまりません。2026年3月31日には、中国系ヒンジャオ・グループ系列の企業が、イカ州の新サンフアン・デ・マルコナ港ターミナルの建設・運営契約に調印しています(約4億500万ドル、運営27.5年)。中国資本の物流結節点がペルー沿岸にもう一つ増える計算です。

論点──「親米」と最大の貿易相手国のあいだ

フジモリ氏の経済政策は投資誘致と規制緩和が軸で、米国はいち早く歓迎の姿勢を示しました。ルビオ国務長官は6月30日付の声明で当選を祝し、安全保障協力の深化と、投資・通商での二国間協力の強化に期待すると表明しています(米国務省)。ただしこれは電話会談ではなく書面の声明で、具体的な合意を伴うものではありません。

他方、経済の実態は簡単には動きません。中国はペルー最大の貿易相手国で、輸出の3割前後を占めます(米国は1割強)。鉱業でも、業界分析によればペルーの投資案件ポートフォリオ約640億ドルのうち中国関連が約230億ドル。トロモチョ(チナルコ)、ラスバンバス(MMG)、マルコナ(首鋼)といった主力鉱山が中国資本の下にあります。銅を軸にした鉱業の成長は、そのまま対中依存の深さでもあります。

フジモリ氏自身は、いずれの大国とも自動的には整列せず、米中のあいだで「戦略的に均衡した」立場を取ると説明していると報じられています。「親米」を看板に掲げつつ既存の対中投資は動かさない、という現実路線です。

7月末に重なる二つの期限

就任式の直前には通商面の期限も重なります。報道によれば、米国が2025年4月の大統領令で導入した一律10%の追加関税は7月24日に期限を迎え、その後の扱いが不透明です。重要鉱物をめぐる通商拡大法232条の手続きも進行中ですが、加工済み重要鉱物への追加関税は当面見送られています。

ただしペルーの銅への影響は限定的とみられます。232条の銅関税の対象は管や電線などの半製品・派生品で、ペルーが主に輸出する精鉱・カソード・鉱石は除外されているためです。加えて2009年発効の米ペルー通商促進協定により、ペルー産の銅と金の多くは無税で米国に入ります。見出しの衝撃と実際の課税範囲は分けて読む必要があります。

筆者の視点

この一件を「米中どちらが勝つか」という枠で読むと見誤ります。7月1日の判決が扱ったのは所有権でも国籍でもなく、規制機関がインフラを監督できるかという行政法上の論点でした。港の株主が中国企業であること自体は、ペルーの法制度の中で合法に成立しています。争われているのは外交ではなく統治能力の側です。

これは外国資本の大型インフラを受け入れてきた他国にも当てはまります。港湾でも通信でも発電でも、契約時に規制の枠組みを曖昧に残すと、後から監督権を取り戻すのに何年もの訴訟が要る。チャンカイが残す教訓は、投資を受けるか断るかの二択ではなく、受けるときに何を書き込んでおくかという話です。

ウォッチすべき指標は3つ。①コスコの上訴が憲法裁判所でいつ受理され、どう判断されるか。②7月28日の就任演説と組閣で、通商・運輸・エネルギー各省にだれが置かれるか。③チャンカイ港の四半期取扱量が年100万TEUの設計能力にどこまで近づくか。3つ目が伸びるほど、1つ目の政治的な重みも増していきます。

用語メモ

OSITRAN(オシトラン)=ペルーの港湾・空港・道路など公共交通インフラの規制監督機関。amparo(アンパロ)=憲法上の権利侵害を争う中南米型の憲法訴訟。TEU=20フィートコンテナ換算の貨物量単位。Fiestas Patrias(フィエスタス・パトリアス)=7月28日・29日のペルー独立記念日、大統領就任式の伝統日。

争われているのは港の国籍ではなく、その上に自国の監督が届くかどうかだ。

参考リンク

※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。最新の数字・日程・手続きは各国政府や一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。