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2026年7月24日、ベネズエラのフェリックス・プラセンシア外相は、国際刑事裁判所(ICC)の設立条約であるローマ規程の廃棄を「断固たる不可逆の決定」として発表しました。国連事務総長への正式通知から一年後に脱退が発効する見通しです。ただし、ICCが進めているマドゥロ政権時代の人道に対する犯罪の捜査は、それでも継続されます。

何が起きたか

公式の脱退理由は「ICCがアフリカとラテンアメリカに案件を偏らせ、欧米諸国を免責している」という地理的偏向論です。この批判自体は、かつてアフリカ諸国がICCに向けて繰り返した議論とほぼ同じ構造を持ちます。ただしベネズエラの場合、ICCが実際に自国の事案を捜査していることが直接の背景にあります。

ICCは、2017年以降の反政府デモ弾圧をめぐり、治安部隊と政権支持派組織が人道に対する犯罪を行ったと信じるに足る合理的な根拠があるとして、2021年に正式捜査を開始しました。南米の国が対象となる正式捜査はこれが初めてです。検察局がカラカスに設けていた事務所は2025年1月に閉鎖されましたが、その理由はベネズエラ当局が捜査に実質的に協力しなかったことでした。脱退宣言はこの流れの延長線上にあります。

過渡期政権が選んだ道

現在ベネズエラを率いるのはデルシー・ロドリゲス暫定大統領で、今回の脱退もロドリゲス政権としての決定です。マドゥロ退場後の移行期にあっても、旧政権を支えた政治エリートが司法責任の追及を避けようとする構図は変わっていません。

脱退宣言を受けて、米国務省は即座に歓迎する声明を出しました。ICCを「腐敗した価値のない機関」と呼び、全加盟国に脱退を促すトランプ政権の立場と一致するからです。米国とベネズエラが足並みをそろえるという近年では珍しい光景は、地域の外交構造の変化を物語っています。

脱退しても捜査は止まらない

ローマ規程の規定上、脱退は国連事務総長への通知から一年後に発効し、それまでは加盟国としての義務が残ります。発効後も、通知以前に行われた行為についてはICCの管轄権が維持されます。捜査対象がマドゥロ政権時代の行為である以上、脱退によって積み上がった証拠や手続が無効になるわけではありません。

実質的な影響は、ベネズエラ当局の協力義務がさらに薄れることと、被疑者の引き渡しを求める法的な足場が弱まることです。捜査官は記録を集め続けられますが、容疑者を法廷に立たせる手段は一層限られます。

筆者の視点

ICCからの離脱は、ブルンジ(2017年)とフィリピン(2019年)が先行し、昨年はブルキナファソ・マリ・ニジェールのサヘル3か国が相次いで脱退を表明し、チャドも脱退の方針を表明しています。ベネズエラはこの流れに南米から初めて加わったことになります。個別の事情は異なっても、「捜査される側が制度から退出する」という共通のパターンが定着しつつあることが、国際刑事司法にとっての本当の試練です。

続報を追う指標は三つあります。第一に、一年後の脱退発効までにICC検察局が捜査をどこまで進めるか。第二に、逮捕状の発付など具体的な手続に進むかどうか。第三に、域内諸国——とりわけICC支持を掲げてきた国々——が今回の脱退にどう反応するかです。地域の人権保護体制の行方を占ううえで、周辺国の沈黙か抗議かは重要なシグナルになります。

用語メモ

ローマ規程(Estatuto de Roma/Rome Statute)はICCの設立条約で、denuncia(廃棄・脱退通告)から一年後に脱退が発効します。crímenes de lesa humanidad(人道に対する犯罪)は、文民に対する広範または組織的な攻撃の一環として行われる殺害・拘禁・迫害などを指します。

脱退して捜査から逃れようとすれば、「逃げている」という事実だけが世界に残ります。

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※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。最新の数字・日程・手続きは各国政府や一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。