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サンビート(San Vito)は、コスタリカ南部のコトブルス(Coto Brus)地方にある人口1万人ほどの小さな町だ。標高980m、首都サンホセからバスで6〜7時間。パナマ国境までは車で約30分という、文字通りの「南端」に位置する。

2013年10月、JICA青年海外協力隊(理学療法士)として2年間ここで暮らすことになった。任地の風景を初めて目にしたとき、「日本にいたとき、青年海外協力隊ってこんなところで働いているんだろうなとイメージしていた、まさにその通りの町」だと思ったのを覚えている。

ホストファミリーの「孫だから家を好きに使いなさい」

最初に住んだのは、町中心部の高齢のホストアブエラ(おばあさん)が一人で住む家だった。初対面の挨拶でいきなりこう言われた。

「あなたは孫だから、家を好きに使いなさい」

中南米の家庭らしい温かさと、距離感のなさ。最初は戸惑ったが、2年間お世話になったこの家こそが、サンビートでの「自分の家」になった。穴の空いたジーンズを直してくれたり、スペイン語が分からない自分にゆっくり話してくれたり、しばらく旅行に出るとホームの飼い猫が部屋のドアを引っ掻いて泣いていたと教えてくれたり。

ちなみに「フラフープ」をスペイン語で何と言うかは、このホストアブエラから教わった。ula ula(ウラウラ)というらしい。

サンビートの民家と黄色い花
サンビートの民家。アラマンダの黄色い花が塀から溢れ、奥に瓦屋根の家。標高980mの高地らしい爽やかな空気。

パナマ国境まで30分という地理

サンビートから国道2号線を南へ約30分、パナマ国境の町パソカノアス(Paso Canoas)にたどり着く。免税店が並ぶ国境タウンで、酒、香水、腕時計が安く手に入る。

任地の同僚医師は気軽な誘い方をする男だった。

「マエ、この後は何か予定があるのかマエ?なにも無いなら、姉妹に香水を買いにパナマへ行くからついて来いよマエ」

※コスタリカの男たちは、とにかく「マエ(mae)」を連発する。日本語で言えば「お前」「兄ちゃん」「な、」のような呼びかけで、文の頭にも文末にも入る。

買い物が終わった後、ドクターはドヤ顔でこう言った。

「マエ、これでお前はパナマに行ったことがあるって言えるなマエ!」

田舎町のリズム

仕事は4つの場所を巡回する組み合わせだった。月曜=リサイクルセンターで手伝い、火・木=サンビート市の診療所でリハビリ、水曜=山道を1時間以上かけてインディヘナ(先住民)の村へ、金曜=老人ホーム。任地での活動についてはコスタリカ滞在記⑦に詳しい。

サンビート市の診療所
サンビート市の診療所(Casa de rehabilitación)。火曜と木曜はここで一人診療していた。日本の援助による機材が揃っており、地域のリハビリ拠点として整備が進められた場所だ。

仕事が終わると、近所の高校生たちとサッカーやバスケをした。サッカーはコスタリカの国技だから当然みんな上手いし、バスケは「ルール知ってる」と言いながらダブルドリブルやトラベリングを連発する。「ドヤ顔で知ってるって言ったじゃないか」と内心ツッコミながら、楽しければ良いかと諦めた。

民家の庭に育つバナナの木
町中の民家の庭にもバナナが普通に育っている。コトブルスはコーヒー産地として有名だが、フルーツの種類も豊富。

職場のフィエスタにも参加した。15時から23時まで食って飲んで踊って歌って——まさに中南米の飲み会。知り合いは1割、初対面が9割。

その日のBGMで流れたのが、当時世界的に大ヒットしていた韓国のカンナムスタイルだった。コスタリカの片田舎まで届いていたのには驚いたが、もっと驚いたのは「お前なら踊れるだろう」と無茶振りされたことだった。

「日本だろ?韓国だろ?同じだろ?踊ってみせろよマエ!」

日本・韓国・中国の違いを、ここで明確に区別している人は少ない。アジア人=同じ、という大ざっぱなくくりで、しかも本人たちは悪気がない。否定するより、その日は流れに身を任せて、練習したこともない振り付けで踊った。家に帰ったあと、YouTubeを見ながら一応おさらいだけはしておいた——次にもしまた無茶振りされたときのために。

「Tranquilo, Pura Vida」の国

何かと予定が変わる。カウンターパートが長期休暇から戻ってこない、診療日にスタッフが来ない、家のWi-Fiが大学院オンライン入試の最中に切れる。最初は腹を立てていたが、半年経つ頃にはコスタリカ語の合言葉に慣れていた。

Tranquilo, mae. Pura Vida(落ち着けマエ、ピュラビダ)

「すべて大丈夫、人生最高」というニュアンス。ピュラビダ(Pura Vida)は単なる挨拶ではなく、コスタリカ人の人生哲学そのものだ。

ウィルソン植物園の道標
近郊のウィルソン植物園(Las Cruces Biological Station)。コトブルスは熱帯生物学研究のメッカでもある。

サンビートで暮らした2年間。山あいの町、口癖の「マエ」、そして30分先のパナマ国境。今でも目を閉じると、夕暮れに犬が走り回る町の空気が思い出せる。

旅行ガイド(一般情報)

※本セクションは公開情報をもとに編集者が補足したものです。最新の運行・営業状況は現地・公式でご確認ください。

サンビート(San Vito)の基礎情報

サンホセからのアクセス

周辺の見どころ

参考リソース

今回訪れた場所

1
サンビート中心部(Parque Central de San Vito)
Coto Brus, Puntarenas Province, Costa Rica / 標高980mの山あいの町
2
パソカノアス国境(Paso Canoas)
Coto Brus border crossing / コスタリカ・パナマ国境タウン。免税店多数
3
ウィルソン植物園(Las Cruces Biological Station)
San Vito, Coto Brus / 熱帯生物研究の拠点。ラン・ヘリコニア等の熱帯植物が見られる