2025年8月、XSR900で北海道を縦断するツーリングをした。出発前に揃えた装備のひとつが、クマ撃退スプレーだった。
出発前にスプレーを買った理由
北海道に行くのは3回目だった。1回目は2021年、SR400で5日間まわった。あのとき紋別でヒグマと鉢合わせした。夕方、星を見ようとオホーツクスカイタワーへ向かう山道で、目の前にクマが立っていた。SR400のエンジン音は届いていたはずなのに、動かなかった。坂道で方向転換もできず、2〜3分待って、クマが道の端に寄ったタイミングで脇を抜けた。2回目は翌2022年、車で道南を3泊4日。バイクではなかったので、ヒグマのことは特に意識しなかった。今回のXSR900は3年ぶり3回目の北海道で、しかも知床・道東を含む一周ルートだった。
▶ 詳細記事: SR400で紋別の山道、夜にヒグマと鉢合わせた話
そしてもうひとつ、出発のわずか8日前のニュースが頭にあった。2025年8月14日、知床・羅臼岳でヒグマに襲われて26歳の男性が亡くなった。下山中に走って移動していた可能性が高いと、知床財団の調査速報が報じていた。被害者を引きずった親グマと子グマ2頭は現場近くで駆除されたが、事故が起きたことは消えない。
羅臼岳と、僕が走る予定の知床峠は同じ知床半島。クマがいる場所に、装備なしで足を踏み入れるのは違うと思った。だから出発前にUDAP 12HPを買った。バイクで走っているときに使う場面はないかもしれない。でも、宿に着いて周辺を散策するとき、停めたバイクの周りで休憩するとき——「持っている」という事実そのものが安心になる。
知床半島での実感
羅臼から相泊へ向かう道道87号線。日本本土最東端の道路の終点に立ち寄り、そのあと知床峠を越える予定でいた。地図上ではただの半島の北端だが、現地に着いて気付いたことがある。ここはヒグマの生息地のど真ん中だということ。
「クマ撃退スプレーの携行を推奨」と書かれた看板
相泊に着いて、案内板の前で立ち止まった。知床半島先端部地区の案内板。日本語と英語で書かれた説明文を読んでいくと、こうあった。
ヒグマと事故を避けるため、正しい知識をもち、ヒグマ対策を行って行動しましょう。
※クマ撃退スプレーの携行を推奨
「推奨」と書かれているということは、現地ではそれだけリスクがあるということだ。看板にわざわざこう書くのは観光客向けのおどしではなく、実際に必要だからだ。
ヒグマ生息地の警告
道路沿いには別の警告看板も立っていた。黄色いクマのシルエットと「ヒグマ生息地 / Bear Country」の表示。
知床半島は世界自然遺産。観光地としての顔の裏で、人と野生動物の距離が近い場所でもある。バイクを停めて立ち小便、なんてつもりで草むらに入っていける場所ではない。
知床峠を越えて
相泊から羅臼まで戻り、知床峠を越えてウトロへ。標高740mの峠は霧の中だった。
峠を下りた先の知床自然センターで、ヒグマの剥製と再会した。本来なら山の中で出会うはずの大きな塊が、ガラスケースの中にいる。これが現地で生きていると思うと、想像力が変わった。
UDAP 12HP — 米国森林警備隊採用品
このXSR900での北海道ツーリングには、最初からUDAP 12HPを携行して出発した。前回SR400で走ったときの経験と、近年のクマ被害ニュースの増加を踏まえての判断で、知床・道東がヒグマの生息地であることは事前に把握していた。「使う機会がないこと」が前提の装備だが、北海道の山道を走るなら持っていて損はない。
これは米国モンタナ州のメーカーが製造する熊撃退スプレー。米国の森林警備隊(National Park Service)に採用されているモデルで、グリズリー対策として実績がある。日本でもヒグマ・ツキノワグマに有効とされている。
なぜわざわざ「米国森林警備隊採用品」を選んだか。市場には安価な「熊撃退スプレー」がいくつも出回っているが、よく見るとそもそも対クマ用ではなく護身用(対人用)だったり、噴射距離やカプサイシン濃度がクマに対して有効か検証されていない製品が混ざっている。クマに襲われる場面で「使ってみたら効かなかった」では取り返しがつかない。UDAP 12HP は値段こそ張るが、米国の国立公園局採用というかたちでクマに対する有効性が公的に確認されている。「もし使うとき」の信頼性に対してお金を払う、という考え方で選んだ。
UDAP 12HP 熊撃退スプレー(ホルスター付)
射程約9m、噴射時間約4秒。トレッキング用ホルスター付きで腰に下げて携行できる。航空機での持ち込みは不可。現地(北海道)での購入はかなり難しいので、フェリー利用+事前購入がおすすめ。
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キャンプ道具・防寒着・パンク修理キット。北海道ツーリングで考える装備のリストはいくつもある。だがこのクマ撃退スプレーを、いま僕は同じくらい重要なリストに入れている。
使う機会がないことが理想だ。でも、知床半島の入り口で「携行を推奨」と公式に書かれた装備を、持たずに走るのはちょっと違う。今回の北海道ツーリングでも結果的にクマと正面から対峙する場面はなかったが、ヒグマの剥製と看板を前にして「持ってきてよかった」と思ったのは確かだった。