← 中南米ニュースに戻る

アマゾンの乾季は7月に始まり、10月まで続きます。今年の乾季は例年より警戒度が高い。エルニーニョ現象の発生確率が61%と試算されており、形成されれば熱帯雨林に深刻な高温と乾燥をもたらすとみられているからです。ブラジル政府はこれに先んじて、2026年の火災対策予算を前年比28%増の10億2,300万レアル(約1億9,700万ドル)に引き上げ、連邦の消防士を4,410人追加採用しました。史上最大規模と言われるこの備えの裏側で、何が起きているのかを整理します。

何が起きたか

今年のアマゾンをめぐる数字には、ひとつの逆説があります。衛星データによる伐採面積は8年ぶりの低水準に近づき、ルーラ政権の「アマゾン保護」政策は一定の成果を示しています。ところが、伐採が減る一方で山火事の件数は2026年1〜5月で約3割増えました。

理由のひとつが「違法伐採の道具としての放火」です。INPE(ブラジル国立宇宙研究所)のデータからは、最近の伐採地の51%が直前に焼かれた跡を持つという事実が浮かび上がりました。気候変動で乾燥しやすくなった森に火を入れれば、重機を使わずに土地を「開墾」できてしまう。伐採の統計が改善しても、森が失われていく量は別の指標で測らなければならない、という現実です。

背景──エルニーニョが描く「最悪のシナリオ」

アマゾン協力条約機構(OTCA)が2026年に公表した流域全体の気候リスク評価によれば、エルニーニョが発生した場合、降水量の減少、河川水位の低下、野火の拡散リスクが著しく高まります。環境NGOのアマゾン・ウォッチも6月18日の報告で「エルニーニョが、すでに崖っぷちにあるアマゾンに戻ってくる」と警告しました。一方で研究者たちは、影響はラグ(時間差)を伴って顕在化する可能性が高く、より深刻な火災シーズンはむしろ2027年に来るかもしれないとも見ています。

皮肉なのは、予算と人員を大幅に積み増したブラジル政府ですら「これで十分かどうかわからない」状況に置かれていることです。気候変動と違法行為の組み合わせは、予防投資だけで対処しきれる問題ではなくなりつつあります。

論点──気候資金という「届かない約束」

もうひとつの問題は、COP30(2025年末にアマゾンの玄関口ベレンで開催)を経た今も解消しない、気候資金の「ラストワンマイル」です。中南米の社会投資ネットワークLatimpactoの幹部へのインタビュー(Mongabay掲載)では、熱帯林保護のために国際的に約束された資金の多くが、実際にはアマゾン域内の先住民や地域コミュニティに届いていない実態が改めて指摘されました。ファンドの投資基準や認定プロセスが現地の実情と噛み合わず、資金は先進国側や大規模NGOのレベルで滞留してしまうのです。

目の前の火災リスクへの緊急対応と、長期的な資金アクセスの改善。この二つを同時に進めなければならないのが、2026年以降のアマゾン政策が置かれた位置です。

筆者の視点

「伐採が8年ぶりの低水準」というニュースと「山火事が3割増」というニュースは、別々に読むとまったく違う印象を残します。前者だけを見れば政策の成功譚(たん)であり、後者だけを見れば危機の物語です。僕がこの件で考えさせられるのは、指標がひとつ改善したときに、問題そのものが姿を変えて別の指標に現れるという構図です。伐採の取り締まりが強まれば、火が代わりの道具になる。制度や規制の研究をしていても、同じ構図には何度も出会います。規制は問題を消すのではなく、しばしば問題の形を変えるのです。

だからこそ、ブラジル政府が消防体制を史上最大に組んだこと自体は評価しつつも、それが「伐採統計の改善」と同じようにいつか迂回されないか、複数の指標を並べて見続ける必要があると思います。森が減ったかどうかを最後に決めるのは、どの統計がきれいかではなく、森そのものですから。

用語メモ

temporada seca(テンポラーダ・セカ)=乾季。アマゾンでは7〜10月がこれにあたります。queimada(ケイマーダ)=ポルトガル語で野焼き・山火事。アマゾンの火災報道で必ず出てくる言葉です。desmatamento(デスマタメント)=ポルトガル語で森林伐採。スペイン語では deforestación(デフォレスタシオン)といいます。

「伐採を減らした」という成果は本物だ。だが、それだけでは乾いた森は守れない。

参考リンク

※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。最新の数字・日程・手続きは各国政府や一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。