ブラジル国立宇宙研究所(INPE)が7月10日に公表した衛星データによると、2026年前半期(1〜6月)のアマゾン地域の森林破壊は1,295平方キロメートルで、前年同期比38%減となりました。2016年以来、10年ぶりの低水準です。ルラ大統領はデータ公表にあわせ、「2030年までに違法伐採をゼロにする」という公約を改めて確認しました。
何が起きたか
ボルソナロ政権下の2022年、アマゾンではニューヨーク市の13倍に相当する面積の森林が失われました。ルラ大統領が2023年に返り咲いて以降、連邦環境警察(IBAMA)への予算投入と専任部隊の拡充、環境犯罪への罰則強化が続き、初年度だけで削減幅は約50%に達しました。今回の1,295平方キロメートルという数字は、その下降トレンドの延長線上にあります。
マリナ・シルヴァ環境大臣は「この軌跡が続けば、1988年の記録開始以来最低の年間値を達成できる」と述べています(報道による)。
背景──「皆伐」の数字が見せない現実
ただし、INPEのこの統計が測っているのは「新たな皆伐(クリアカット)」です。火災・選択的伐採・干ばつによる立ち枯れといった「劣化(デグラデーション)」は別枠で集計されます。研究者の指摘によれば、劣化はアマゾン全体の約40%に広がっており、面積の規模でいえば皆伐を上回るとされています。
皆伐が減ったこと自体は確かな改善です。しかし「森林が切られていないこと」と「森林が健全であること」は別の話で、アマゾンの全体像は数字より複雑です。
論点──エルニーニョという乾季の変数
今年最大のリスクは気候です。気象機関の予測では2026年のエルニーニョ形成確率は高く、少なくとも年末まで継続する可能性が指摘されています(WMOの警告の既報)。エルニーニョはアマゾン流域に乾燥をもたらし、川の水位を下げます。乾季(7〜10月)と本格的なエルニーニョが重なれば大規模な山火事の条件が整い、前半期に積み上げた成果が数字の上で反転しかねません。今年の火災シーズンの見通しは既報で扱っています。
筆者の視点
環境データを読むときにいつも意識したいのは、「何を測った数字か」という設計の問題です。皆伐面積は衛星で実測でき、政策効果が最も表れやすい指標です。一方で劣化は定義も計測も難しく、ニュースの見出しにはなりにくい。「10年ぶりの低水準」という明るい数字と、「劣化は皆伐を上回る規模」という暗い指摘は、矛盾しているのではなく、別のものを測っているのです。
ウォッチすべきは、乾季入り後のINPE月次速報(DETER)の推移と、11月ごろに出る年間確定値です。「10年ぶりの低水準」が乾季と山火事シーズンを越えてなお維持されているか──答え合わせはそこで行われます。
用語メモ
desmatamento(デスマタメント)=ポルトガル語で「森林破壊・伐採」。degradação(デグラダサォン)=「劣化」、皆伐に至らない森林の損傷。PRODES/DETER=INPEが運用する年次確定統計(PRODES)と月次速報(DETER)の衛星監視システム。
10年で最も伐られなかった半期。それがアマゾンにとって最も安全な半期だったかどうかは、数字の外にある。
参考リンク
- Under Lula, Amazon deforestation falls to lowest level in a decade | Al Jazeera — aljazeera.com
- Amazon rainforest deforestation at 10-year low | UPI — upi.com
- Brazil deforestation data | Phys.org — phys.org
- Amazon deforestation on pace to be the lowest on record | Mongabay — mongabay.com
※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。最新の数字・日程・手続きは各国政府や一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。