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アルゼンチンの経済が数字のうえでは大きく好転している。長年の宿痾だったインフレは31%まで下がり、2018年以来の低水準になった。財政は14年ぶりに黒字に転じ、IMFは2026年の成長率を3.5%と見込む。「南米の万年危機国」という見方からすると、ミレイ政権の2年は劇的だ。ただその達成のされ方を見ると、手放しでは喜べない部分もある。

たしかに数字は良くなった

ミレイ大統領は2023年末、「チェーンソー」を掲げて緊縮を進めると宣言して就任した。補助金の削減、公共支出の大幅カット、通貨政策の引き締め。荒療治の結果、月ごとの物価上昇は落ち着き、年率インフレは31%まで低下した。財政も歳出を削って黒字化した。これは事実で、成果と呼んでいい。

貧困率も、いったん跳ね上がったあと下がった。就任直後の2024年前半には53%まで上昇したが、2025年後半には28.2%まで低下し、こちらも2018年以来の低さだという。インフレが家計を直撃する国では、物価が落ち着くこと自体が最大の貧困対策になる——その面は確かにある。

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気をつけたいのは貧困率の下がり方だ。アルゼンチン・カトリカ大学(UCA)は、政府統計(INDEC)の手法が改善幅を大きく見せている可能性を指摘している。改善の約4分の3は、所得が本当に増えたというより、月々のインフレが鈍ったことによる統計上の効果かもしれないというのだ。物価の計算が落ち着けば、同じ収入でも「貧困線を超えた」と数えられる人が増える。生活実感としての豊かさが戻ったかどうかは、また別の問題になる。

そして黒字は、歳出を削って生み出されたものだ。削られたなかには、年金や社会保障、医療補助も含まれる。障害者年金をめぐる動きでも触れたとおり、アルゼンチンでは非拠出制の障害年金を絞り込む改正案が議会に出され、退職者向け医療PAMIの薬剤補助の縮小も伝えられている。マクロの数字が整うとき、その調整がどこに効いているか——いちばん制度に頼っている人のところ、というのはよくある話だ。

「奇跡」なのか「警告」なのか

ミレイの手法を「インフレの奇跡」と評する声がある一方で、研究者からは「これは手本ではなく警告だ」という見方も出ている。短期で物価を止めた代償として、痛みが弱い層に偏っていないか。回復が一部の指標に偏っていないか。為替の安定がどこまで持続するか。エネルギー(バカ・ムエルタの油田・パイプライン)の輸出拡大という追い風はあるが、それで全体が底上げされるかはこれからだ。

つまりアルゼンチンの2026年は、「緊縮は効くのか」という問いに対する、進行中の実験になっている。数字が良くなったのは本当。でも、良くなった数字の下で誰がどれだけ我慢しているのか——そこまで見ないと、成功とも失敗とも言い切れない。

遠い国の話ではない

財政の持続性と、弱い立場の人の暮らし。この二つをどう両立させるかは、どの国の社会保障も必ずぶつかる問いだ。アルゼンチンは、それを極端なスピードでやっている分、結果がはっきり見える。緊縮が物価を鎮めると同時に、誰の取り分を削ったのか。その答えが出るのは、もう少し先だ。

マクロの数字が整うとき、その調整は、いちばん制度に頼っている人のところに効きやすい。

参考リンク

※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。最新の経済指標・数字は各国政府やIMF等の一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。