米通商代表部(USTR)は7月15日、1974年通商法第301条にもとづき、ブラジルからの輸入品に25%の追加関税を課すと発表しました。発効は7月22日午前0時1分(米東部夏時間)。詳細を定めた通知は7月20日付の連邦官報に掲載されています。6月に提案段階として報じた25%が、正式な措置として確定しました。
何が決まったか──25%と、長い例外リスト
税率は一律25%で、段階的な区分はありません。構造を正確に言えば「大半の品目に25%」ではなく、「ブラジルからの輸入全般に25%、ただし列挙された例外を除く」という形です。例外は官報の附属書に並び、すでに通商拡大法232条の対象である鉄鋼・アルミ、医薬品などが含まれます。報道によれば、コーヒー、牛肉、オレンジとオレンジジュース、一部の石油・ガス関連品目、航空宇宙部品も除外されました。一方で高純度の溶解パルプは6月の除外案から外れ、課税対象として残っています。
USTRが「不合理な慣行」と認定したのは6分野です。米国のテック企業にコンテンツ削除やアカウント停止を命じるブラジルの司法命令(USTRはこれを非公開の命令だと指摘しています)と電子決済サービス、メキシコやインドへの特恵関税との非対称性、知的財産権の保護、エタノール市場へのアクセス、汚職対策の執行、そして違法伐採です。
なぜ301条なのか──50%関税が消えたあと
鍵は、法的な根拠が入れ替わったことにあります。2025年7月、米国は国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に40%の関税を発動し、既存の10%と合わせて実効50%となっていました。ボルソナーロ元大統領の訴追への対抗という、政治的な色彩の濃い措置でした。
ところが2026年2月20日、米最高裁はLearning Resources, Inc. v. Trump判決でIEEPAを根拠とする関税権限を否定します。50%は失効し、残ったのは一律10%だけでした。301条調査は2025年7月15日に始まっており、2026年6月1日の認定、7月6〜7日の公聴会を経て今回の発動に至ります。つまりこの25%は、最高裁に否定された措置を、より正統な通商法の手続きで組み直したものです。税率は半分になりましたが、手続きを踏んだぶん法廷で覆りにくい。ブラジル産業界の警戒がむしろ強いのは、そのためです。
数字の読み方──「4,187品目・149億ドル」が指すもの
ブラジル全国工業連合(CNI)が公聴会に提出した試算では、対象4,187品目・輸出額約149億ドルという数字が示されました。ただしこれは25%だけの数字ではありません。暫定的な10%、301条の25%、別途調査中の強制労働関連12.5%を積み上げた、合計37.5%という最悪シナリオの試算です。実際に発動された25%と例外リストを前提にすると、CNI自身は影響額を約110億ドルと見ています。
より示唆的なのは、対象品目の62%が中間財だという指摘です。米国の製造業が投入財として買っているものが多く、関税のコストは米国側の川下産業にも回ります。CNIによれば2026年上半期のブラジルの対米輸出はすでに13%(26億ドル)減り、27の連邦単位のうち20で減少しました。パラナ州とサンタカタリーナ州がともに32.9%減、アクレ州は62.8%減です。
ブラジル側の対応と、選挙という変数
ブラジル政府は7月16日未明の声明で、7月15日を「嘆かわしい節目」と表現しました。WTOの紛争解決手続きで問題を取り上げる方針と、議会が全会一致で可決した「相互主義法」の発動手続きに入ることを表明しています。ただし現時点では、提訴も具体的な報復品目も、まだ実行されていません。
10月4日の大統領選(決選投票は10月25日)との関係は、直感とは逆方向に働いているようです。7月15日のQuaest調査ではルーラ大統領が40%、野党・自由党(PL)のフラーヴィオ・ボルソナーロ上院議員が28%。関税の責任について51%がフラーヴィオ側と答え、ルーラ側とした30%を上回りました。失業率も5.6%(3〜5月期)と同期では統計開始以来の最低水準で、雇用が政権のリスクになる状況ではありません。候補者登録の締め切りは8月15日で、いまは全員が「事前候補」です(選挙情勢はこちら)。
筆者の視点
この件でいちばん誤読されやすいのは、税率の低下を緩和と受け取ることだと思います。50%から25%へ下がったのは事実ですが、企業の投資判断にとって重要なのは水準よりも予見可能性です。IEEPAの50%は法廷で消えました。301条の25%は、調査・公聴会・官報告示という手続きを踏んでいるぶん、同じようには消えません。数字が半分になった代わりに、その数字が続く確率が上がったわけです。
数字の扱いにも同じ注意が要ります。「4,187品目・149億ドル」は、報じられるときにシナリオの前提が落ちがちな典型例です。誰が、どの想定で、いつ出した数字なのか。通商のニュースでは、この3点を確認するだけで見え方がかなり変わります。
地域横断で見ると、301条が汎用の圧力装置になりつつあることが分かります。2026年6月には強制労働を名目に60カ国を対象とする301条提案が出され、メキシコとエクアドルも含まれました。USMCAも毎年の延長審査モードに入っています。ウォッチ指標は3つ。8月4〜5日のCopom(Selicは6月17日の利下げで14.25%)が関税をどう織り込むか、7月30日公表のIBGE失業率が雇用の変調を示すか、そして8月15日の登録後に相互主義法にもとづく報復品目が実際に指定されるかどうかです。
用語メモ
Seção 301(セサォン・トレゼントス・イ・ウン)=米国1974年通商法301条。不公正な貿易慣行に対する一方的措置の根拠法。tarifaço(タリファッソ)=「大型関税」を指すブラジルの俗語で、今回の一連の措置に広く使われる。Lei da Reciprocidade(レイ・ダ・ヘシプロシダーデ)=相互主義法。一方的な通商措置に対抗措置を取れるようにした2025年成立の法律。Selic(セリック)=ブラジルの政策金利。
税率は50%から25%へ下がった。しかし根拠法が入れ替わったことで、この関税ははるかに長持ちする設計になった。
参考リンク
- USTR Announces Section 301 Action on Brazil's Acts, Policies, and Practices(2026-07-15) | USTR — ustr.gov
- Notice of Action: Brazil's Acts, Policies, and Practices(2026-07-20) | Federal Register — federalregister.gov
- Tarifa adicional de 25% dos EUA prejudica competitividade brasileira | CNI — portaldaindustria.com.br
- Íntegra da nota do governo brasileiro contra o tarifaço(2026-07-16) | Poder360 — poder360.com.br
- Copom reduz taxa Selic para 14,25% ao ano(2026-06-17) | Agência Brasil — agenciabrasil.ebc.com.br
- 51% culpam Flávio Bolsonaro pelo tarifaço, diz Quaest | Poder360 — poder360.com.br
※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。最新の数字・日程・手続きは各国政府や一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。