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ほんの10年ほど前まで、エクアドルは「中南米のなかでは比較的安全な国」と言われていた。それがいま、地域で最も暴力的な国のひとつになっている。2025年の殺人率は10万人あたり51件で過去最悪を更新し、中南米で最悪の水準が3年続いた。麻薬密輸ルートの結節点になり、刑務所がギャングの拠点になった。いくつもの要因が重なって治安は急速に崩れた。

数字が物語る悪化

殺人率10万人あたり51件という数字は、2023年の46件という前のピークも上回る。2025年は1月から5月だけでギャング絡みの暴力が1,300件超記録され、前年同期より6割以上増えたという報告もある。観光や日常の場面でも、港湾都市グアヤキルを中心に治安の悪化が生活に食い込んでいる。

ノボアの強硬路線

ノボア大統領はギャングを「テロ組織」と位置づけ、22の組織に事実上の「戦争」を宣言してきた。非常事態の宣言、軍の動員に加え、2026年3月にはグアヤスなど4州で15日から31日まで夜11時〜翌朝5時の夜間外出禁止令を出した。強い手で押さえ込む——エルサルバドルのブケレ型のアプローチに近い。

さらに目を引くのが、アメリカとの連携だ。2026年3月6日には米国が直接参加する形で「総殲滅作戦」が実施され、コロンビア国境沿いで麻薬密輸に関与するとされるFARC離脱グループ(Comandos de la Frontera)が攻撃されたと報じられている。国内の治安問題に、外国の軍事力が踏み込む段階に来ている。

強硬策が抱えるジレンマ

厳しい取り締まりは短期的には数字を動かすことがある。ブケレ下のエルサルバドルがそうだったように、支持率も上がりやすい。だが強権には副作用もつきまとう。人権団体や一部の報道は、非常事態の常態化、人権の侵害、野党への圧力といった懸念を指摘している。治安の回復と、法の支配・人権の保障をどう両立させるか——そこが問われている。

そしてもうひとつ。暴力の根っこには、貧困、若者の雇用のなさ、密輸経済への依存といった構造がある。軍と警察で組織を叩くことは要るとしても、それだけでは蛇口は閉まらない。教育や雇用、社会の側の手当てが伴わなければ、別の組織がまた空白を埋める。「割れた窓」を直すには、警備と同時に暮らしの土台を立て直す視点がいる。

地域全体に効いてくる

エクアドルの治安危機は、その国だけの問題では終わらない。麻薬の流通、人の移動、国境を越えた組織犯罪は、コロンビアやペルー、さらに北の国々ともつながっている。だから米国も関与する。強い手で押さえ込む路線が、どこまで持続し、どんな代償を伴うのか。中南米全体の治安政策の試金石として、エクアドルのこの数年を見ている。

組織を叩くことは要る。だがそれだけでは、空白はまた別の誰かが埋める。

参考リンク

※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。最新の治安情勢・統計・渡航情報は各国政府や外務省の一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。