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6月4日、汎米保健機構(PAHO)がアメリカ大陸全域の加盟国に向けて、エボラ出血熱への備えを強化すると発表しました。コンゴ民主共和国とウガンダで続く流行を受けて、WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言した直後の動きです。アメリカ大陸でのリスクは「低い」とされ、域内の感染報告もありません。それでもPAHOは動きました。感染者ゼロのうちから一斉に身構える、その判断の背景に何があるのかを追います。

なぜアフリカの流行が緊急事態なのか

DRCとウガンダの流行は、いまのところアフリカ域内にとどまっています。アメリカ大陸へ直接ウイルスが渡る経路ができる可能性は、確かに高くありません。それでもWHOがPHEICを宣言した意味は軽くありません。いまの流行を抑え込めなければ国境を越えうる、と国際社会が公式に認定したということだからです。2014年から16年にかけて西アフリカを襲った流行が残した教訓の一つは、感染者が出てから備え始めたのでは遅い、というものでした。エボラは初動の数週間で被害の規模が大きく変わります。

PAHOが6月上旬に動かしたもの

6月3日、PAHOの緊急オペレーションセンターが開いた技術セッションには、30か国から394人が参加しました。翌4日の公式発表に続き、10日には各国の保健省担当者とGOARN(世界アウトブレイク警告・対応ネットワーク)のパートナーとの追加セッションも行われています。PAHOはインシデント・マネジメント・システムを起動し、平時の体制から緊急調整モードへ切り替えました。加盟国に求めているのは、サーベイランス(監視体制)の強化、検査体制の整備、個人防護具(PPE)の必要量の試算、そして感染予防手順の再確認です。ウイルス検出用の資材を各国へ送る準備も進めています。

「低リスク」が「安心」に直結しない国がある

ここで考えたいのが、中南米各国の保健インフラの現実です。ベネズエラやハイチのように、医療制度がすでに深い脆弱性を抱えた国では、「低リスク」はそのまま「安心」へは変わりません。いったん大規模な感染症対応が始まれば、限られた医療資源がそちらへ集中します。そのとき最初にしわ寄せを受けるのは、ふだんから通常医療へのアクセスが細い人たちです。定期的な透析やインスリン、抗てんかん薬を欠かせない人、補装具や在宅ケアに頼って暮らす人、農村部で慢性疾患を抱える患者。平時でさえ医療との距離が遠い彼らとの隔たりが、緊急時にはさらに広がります。

筆者の視点

僕は保健医療学の博士で、理学療法士として働いてきました。中南米では補装具を必要とする人たちの現場を、自分の足で歩いて見てきています。だからPAHOが感染者ゼロのうちに動くと聞いたとき、合理性とは別の重さを感じました。医療資源が感染症対応に吸い寄せられるとき、真っ先に届かなくなるのは、車椅子の修理を待つ人や、装具の調整を半年先まで予約できずにいる人です。彼らの「順番」は、平時でも後ろに回されがちでした。先手を打つというのは、その後回しを少しでも食い止めるための時間稼ぎなのだと、僕は受け取っています。感染者がゼロのうちに動くほうが、出てから動くよりも、お金の面でも人の面でもはるかに安く済みます。

先手とは、最も脆弱な人を後回しにしないための時間稼ぎなのです。

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参考リンク

※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。最新の数字・日程・手続きは各国政府や一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。