ケイコ・フジモリ氏の就任式まで、あと1週間余りとなりました。7月28日の独立記念日に、ペルー初の女性大統領が誕生します。新政権が経済の柱に据えているのは鉱業です。ただ、この話題では桁の違う数字がいくつも飛び交っています。就任前のこの時点で、確定していることとしていないことを分けておきます。
まだ決まっていないこと──閣僚人事
7月20日の時点で、フジモリ次期政権の閣僚は一人も正式に発表されていません。ペルーには閣僚発表の期限を定めた規定はなく、就任日までに組閣が整っていればよい形です。首相にあたる閣僚評議会議長の候補としては、党幹事長で第一副大統領に当選したルイス・ガラレタ氏、元経済財政相のルイス・カランサ氏、元大統領府相のエドガルド・モスケイラ氏の3人が取り沙汰されています。
経済財政省(MEF)についても、報道ではカランサ氏の名前が挙がっています。ただし現時点では観測にとどまり、確定した人事ではありません。SNS上で「閣僚名簿」が出回った際には、与党フエルサ・ポプラルの広報がその内容を否定しています。カランサ氏は2006〜09年のガルシア政権で経済財政相を約3年務めた人物で、市場が「テクノクラート路線」の象徴として注視しているのは確かですが、そこから先はまだ空白です。
640億ドルと63億ドルは、別の数字です
エネルギー鉱山省(MINEM)が6月に公表した「2026年鉱業投資プロジェクト・ポートフォリオ」は、19県にまたがる66案件、総額640億7,500万ドルです。2025年10月の更新版から1.7%増えました。中心は銅とモリブデンで、南部アンデス回廊に集中しています。個別案件では、サフラナル(19億ドル)、コンガ(48億ドル)、エル・ガレノ(35億ドル)、イエロ・アプリマク(29億ドル)などが並びます。
これに対し、ワルディル・アヤスタ・エネルギー鉱山相がリマの第27回世界鉱業会議で述べた「2026年の鉱業投資は約63億ドル」は、その年に実際に支出される金額です。総額のおよそ1割。前者は10年単位で実現するかもしれない案件を足し上げた数字、後者は今年動く現金です。この二つは「630億ドル」といった形で混ざりやすいので、読むときは必ず分けたほうがいい。
公約の中身──優先審査、税優遇、そしてカノンの40%
フエルサ・ポプラルの政権公約(2026〜2031年)で鉱業に関わる柱は3つ。一般鉱業法の改正と「戦略的案件」向けの優先審査ルート、再投資への税制優遇、そして税務当局SUNATや水資源庁ANA、州政府とデータ連携する許認可のデジタル一元窓口です。
議論を呼んでいるのは、鉱業カノンの最大40%を採掘地域の住民に直接配分するという案です。カノンは鉱業ロイヤルティとは別物で、鉱業企業が納めた法人所得税のうち産出地域の地方政府や国立大学に還流している財源を指します。つまり原資は、いまも地方に配られているお金です。ペルー経済研究所(IPE)は公共投資改革の放棄につながると指摘し、天然資源ガバナンス研究所(NRGI)は変動の大きい有限な財源を直接給付にあてる持続性を疑問視しています。
7月16日に出た警告
就任を目前にした7月16日、ペルー鉱山紛争オブザーバトリーが、新政権の鉱業推進が新たな抗議を招きうるとする分析を公表しました。論拠は単純で、主要な鉱業地域の多くが今回の選挙でフジモリ氏に投票しなかったという事実です。人権擁護官の集計では、継続中の社会紛争はおよそ200件、うち64件が鉱業・環境に関わります。
名前が挙がったのは、テイア・マリア(サザン・カッパー、18億ドル、2027年の操業開始が認可済み)と、中国・紫金鉱業のリオ・ブランコです。NGOフェデパスのダビド・ベラスコ氏は、いずれも反対運動に直面しうるとしています。先住民の事前協議はILO第169号条約に基づく制度で、探査や採掘の開始許可などが対象です。「迅速化」がこの手続きとどう両立するのかは、まだ示されていません。銅と金の高値が違法採掘の拡大も招いてきた構図は既報のとおりで、アマゾンの金採掘も同じ構図です。
議会という制約
実行力は議会に規定されます。4月12日の議会選挙は1990年以来はじめての二院制選挙で、フエルサ・ポプラルは上院60議席中22、下院130議席中41を得て第一党になりましたが、いずれも過半数には届きません。鉱業法の改正もカノン配分の変更も法改正が必要です。大統領選が約4万4千票差だったこと(既報)、就任時に治安・経済・先住民対話の3つが同時に待つこと(既報)を含め、出発点は数字の上でも狭い。
筆者の視点
この話題でいちばん役に立つのは、「パイプライン総額」と「年間投資額」を必ず分けて読む習慣だと思います。640億ドルには、事前調査段階の案件も、環境許認可がまだの案件も、実現するかどうか分からない案件も全部入っています。今年実際に動くのは63億ドル。政権1年目を評価するなら、見るべきは総額ではなく、建設段階に移った案件の数と金額のほうです。
もう一つ気になるのはカノン40%案の設計です。資源収入を住民に直接渡す発想には先例がありますが、アラスカ永久基金のような仕組みは基金の運用益を配るもので、原資そのものを配るわけではありません。銅価格が下がった年に配分額が半減しても制度が持つのか。2006〜11年の自主拠出金「オボロ・ミネロ」が、5年で22億8,200万ソルを集めながら3分の1しか執行できず義務課税に切り替えられた経緯は、ペルー自身の教訓です。
追い風もあります。中央準備銀行(BCRP)は6月の報告で2026年の成長率見通しを3.2%から3.4%に引き上げました。見るべき指標は3つ。7月28日前後に発表される経済財政相、8月中に想定される議会での信任投票、そして年内にMINEMが更新する建設段階の案件リストです。
用語メモ
canon minero(カノン・ミネロ)=鉱業企業の法人所得税のうち、産出地域の地方政府や国立大学に配分される財源。regalía minera(レガリア・ミネラ)=鉱業ロイヤルティ。カノンとは別建ての課徴金。consulta previa(コンスルタ・プレビア)=ILO第169号条約に基づく先住民への事前協議。cartera de proyectos(カルテラ・デ・プロジェクトス)=案件一覧、投資パイプライン。
640億ドルは十年分の見通しで、63億ドルは今年の現実。政権の一年目を測るなら、見るべきは後者だ。
参考リンク
- Ministro Ayasta: Inversiones mineras bordearán los US$ 6,300 millones al cierre de 2026 | MINEM(gob.pe) — gob.pe
- Cartera de Proyectos de Inversión Minera 2026: Perú impulsará 66 proyectos por US$64.075 millones | La República — larepublica.pe
- ¿Cuál es la fecha máxima para que Keiko Fujimori anuncie a su gabinete ministerial? | Infobae(2026-07-01) — infobae.com
- Fujimori's mining push could spur unrest in Peru, study says | Mining Weekly(2026-07-15) — miningweekly.com
- El plan Fujimori: Fuerza Popular insiste con repartir dinero del canon de mano en mano | Infobae — infobae.com
- Reporte de Inflación — Junio 2026 | Banco Central de Reserva del Perú — bcrp.gob.pe
※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。最新の数字・日程・手続きは各国政府や一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。