新潟に行くと、酒の選択肢が多すぎて毎回迷う。県内の蔵元数は90を超え、清酒の出荷量は兵庫・京都に次ぐ全国3位。米(コシヒカリ・五百万石)、雪解け水、低温長期発酵向きの寒い気候——日本酒造りに必要なものが全部揃っている。さらにサッポロビールの初代醸造長・中川清兵衛が新潟県与板の出身という縁もあって、ビールにも新潟限定の一本が存在する。
今回は新潟をぶらりと旅して、あちこち寄り道しながら、地元限定のカップ酒、地酒の特別本醸造、ご当地ビールまで4本を買い集めた。いずれも観光土産というより「地元の人が普通に飲んでいる酒」寄りのラインナップ。順に紹介する。
越乃景虎 龍 普通酒 180mlカップ
新潟県長岡市栃尾の諸橋酒造が出す看板銘柄「越乃景虎」のカップ版。「景虎」は上杉謙信の元服名で、栃尾は謙信が青年期を過ごした地でもある。普通酒ではあるが、辛口で雑味が少なく、後口がすっと切れる。冷やでもぬる燗でも崩れない、いわゆる新潟らしい淡麗辛口。
180mlカップは旅先や駅の待ち時間で飲むのに丁度いいサイズで、新潟の駅売店ならだいたい置いてある。食中酒として焼き魚や煮物と合わせると、酒の輪郭がはっきりして料理の塩気を受け止めてくれる。
弥彦カップ(YAHIKO)スノーフレーク柄
新潟県西蒲原郡弥彦村の弥彦酒造が出す地元限定カップ。弥彦神社の門前町で作られている酒で、雪柄のラベルがそのまま縁起物になる。中身は淡麗系の普通酒だが、米の旨みがほのかに残るタイプで、景虎より少し丸い印象。
弥彦神社に参拝した帰り、駅前の土産屋でしか買えない——というほどではないが、県外の流通はかなり限られる。観光土産として持ち帰っても良いし、空のカップは出汁猪口として再利用できる。
サッポロ「風味爽快ニシテ」新潟限定ビール
サッポロビールの父と呼ばれる中川清兵衛は、新潟県与板(現・長岡市)出身。19歳で渡欧し、ドイツのベルリン・ティボリ醸造所でビール醸造を学んだ日本人初のビール技師だ。1876年(明治9年)に開拓使麦酒醸造所——現在のサッポロビールの源流——の初代醸造長として札幌に赴任した。「風味爽快ニシテ」は、その清兵衛が札幌で醸したビールに対する明治期の評価語そのままを冠した新潟限定缶。缶側面には彼の物語がびっしり印刷されていて、それを読みながら飲むのが半分くらいの楽しみだ。
中身は素直なピルスナーで、麦芽の香りがしっかりあって苦味は控えめ。よく言えば真面目、悪く言えば地味——だが、清兵衛がドイツで学び持ち帰った「ちゃんとしたビール」の系譜にいるのだと思うと、地味さが急に味わい深く感じられる。
天領盃 特別本醸造 1.8L
佐渡市の天領盃酒造が出す特別本醸造。佐渡は江戸時代に天領(幕府直轄地)だったため、酒名にもその名残が残る。特別本醸造らしく辛口寄りでキレが良く、価格は一升瓶で2,000円台前半とコスパが優秀。家での晩酌用、もしくは大勢で鍋をつつくときに供出する一本としてちょうどいい。
燗にすると米の甘みがふわっと開く。冷やしすぎず、人肌〜ぬる燗くらいで飲むのが個人的には好き。佐渡まで足を伸ばさなくても、新潟駅の土産屋やイオン系列で見かけることがある。
新潟の酒は「淡麗辛口」と一括りにされがちだが、実際に並べてみると蔵ごとに性格がはっきり違う。景虎は鋭く、弥彦は丸く、天領盃は素直で、清兵衛のビールはちょっと真面目。土地の物語ごと飲むのが、新潟の酒の楽しみ方だと思う。
新潟の酒・豆知識
新潟が「酒どころ」と呼ばれる理由
新潟は酒造りに必要な「米・水・気候・人(杜氏)」が揃った稀有な土地。県内の蔵元数は90を超え、越後杜氏は南部杜氏・丹波杜氏と並ぶ日本三大杜氏のひとつ。冬の長い低温環境が、ゆっくりとした並行複発酵に向いている。
淡麗辛口のルーツ
戦後、酒税法上の濃醇酒が主流だった時代に、八海山・久保田・〆張鶴などが「すっきりした飲み口の本醸造・吟醸」を打ち出して全国に広まった。これが「新潟=淡麗辛口」のイメージを作った。
中川清兵衛と日本のビール
新潟県与板出身の中川清兵衛(1848–1916)は、日本人として初めて本格的なドイツ式ビール醸造を学んだ人物。札幌の開拓使麦酒醸造所で初代醸造長を務め、現代サッポロビールの礎を築いた。
4本のうち通販で入手しやすいのは越乃景虎と天領盃、サッポロ風味爽快ニシテ。弥彦カップは現地調達推奨。

