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旅の記憶は、けっきょく食べたものの記憶だ。サントドミンゴでの滞在中に出会った食べもの——エンパナーダ専門店、緑のボトルの国民的ビール、豆入りの炊き込みご飯、そして「国民食」と呼ばれるスープ——を、今回はまとめて書いておきたい。どれも高級レストランの料理ではなく、この国の人たちが毎日食べているものばかりだ。

エル・コンデ通りのエンパナーダ専門店

ミックス・エンパナーダスのメニュー。チキン・ポーク・ビーフ・シーフード・ベジタリアンまでずらりと並ぶ
メニューはチキン、ポーク、ビーフ、シーフード、ベジ、デザート系まで。1個RD$110〜180。

ソーナ・コロニアルを東西に貫く歩行者天国、エル・コンデ通り。その一角にあるエンパナーダ専門店「ミックス・エンパナーダス(Mix Empanadas)」に入った。エンパナーダは中南米の広い地域で食べられている具入りのパイ(揚げ・焼き)で、国や店によって生地も具もまったく違う。ここはメニューを開いて驚いた。チキンだけで5種類、ポーク、ビーフ、シーフード、ベジタリアン、バナナとチョコレートソースなんてデザート系まで、ざっと30種類近い。1個RD$110〜180、日本円にして数百円だ。

かじると、パリッと揚がった生地の中から、煮込んだ肉がごろごろ出てきた。肉汁を吸った生地の内側がうまい。屋台のスナックという先入観を軽く超えてくる、ちゃんとした「一食」だった。地元の人が次々にテイクアウトしていくのを見ると、ここでは日常のファストフードなのだと分かる。

緑のボトルの国民的ビール、プレシデンテ

夜のレストランのテーブルに置かれた、よく冷えたプレシデンテの緑のボトル
ラベルには「Auténtico orgullo dominicano(ドミニカの本物の誇り)」の文字。

前回スーパーの棚で紹介したプレシデンテ(Presidente)を、レストランでちゃんと飲んだ。緑のボトルに白いラベル、アルコール5.0%のピルスナータイプ。1935年に生まれたドミニカの国民的ビールで、ラベルには「Auténtico orgullo dominicano——ドミニカの本物の誇り」と書いてある。味は軽快ですっきり。カリブの暑さの中では、この軽さこそが正解だと思う。ドミニカではビールをキンキンに冷やして飲むのが流儀で、ボトルが白く霜をまとった状態を「ベスティーダ・デ・ノビア(花嫁衣装をまとった)」と呼ぶそうだ。汗をかいた緑のボトルを見ると、その表現がしっくりくる。

豆ご飯「モロ」——ドミニカの定食の顔

テイクアウト容器に入ったモロ・デ・グアンドゥーレスと鶏肉の煮込み、温野菜
キマメ入りの炊き込みご飯「モロ・デ・グアンドゥーレス」。鶏肉の煮込みと温野菜を添えて。

名前をずっと思い出せなかった豆ご飯の正体は「モロ(moro)」。米と豆を香味野菜と一緒に炊き込んだ、ドミニカの食卓の顔だ。写真のものは小粒の豆——グアンドゥーレス(キマメ)——が入った「モロ・デ・グアンドゥーレス」で、赤インゲン豆でつくればモロ・デ・アビチュエラスになる。豆の煮汁ごと炊き込むから、米はほんのり茶色く色づいて、豆の風味が一粒一粒に染みている。鶏肉の煮込みと温野菜を添えたテイクアウトの一箱は、飾り気ゼロで、だからこそ毎日食べられる味だった。

ちなみにドミニカの定番ランチは「ラ・バンデラ(la bandera=国旗)」と呼ばれる、白ご飯+豆の煮込み+肉+サラダの組み合わせ。モロはその米と豆が一緒に炊き込まれたバージョンと考えると分かりやすい。米と豆はこの国の食事の背骨だ。

国民食のスープ、サンコーチョ

花柄の器に入ったサンコーチョ。黄金色のとろりとしたスープに鶏肉と根菜が沈む
サンコーチョ。とろみのある黄金色のスープに、肉と根菜がごろり。左上に見えるのは添えの白ご飯。

そして、ドミニカ共和国の「国民食」と呼ばれるスープ、サンコーチョ(sancocho)。肉と、プラタノ(調理用バナナ)・ユカ(キャッサバ)・ニャメ(ヤムイモ)・アウヤマ(カボチャ)といった根菜類をじっくり煮込んだ、ポタージュのようにとろりとした煮込みだ。とろみは小麦粉ではなく、煮崩れた根菜そのもの。スプーンを入れると、ほろほろになった鶏肉と、黄金色のイモの塊が出てくる。素朴で、滋味深くて、体の芯に染みる味。白ご飯を添えて、スープをかけながら食べるのが現地流だ。

サンコーチョは日常のごちそうであると同時に、祝いの料理でもある。大晦日や家族の集まりには大鍋で煮込まれ、豪華版になると牛・豚・鶏など7種類の肉を使う「サンコーチョ・デ・シエテ・カルネス(7つの肉のサンコーチョ)」が登場するという。雨の日にはサンコーチョ、というのがドミニカ人の合言葉らしい。カリブの島で「寒い日の鍋」的な位置づけのスープが国民食というのが面白い。

エンパナーダも、プレシデンテも、モロも、サンコーチョも、どれも気取らない毎日の味だった。ラリマールやラム酒のような「持ち帰れるお土産」と違って、これらはその場でしか味わえない。だからこそ、書き残しておく価値があると思う。

その国の味は、レストランの看板料理ではなく、毎日の皿の上にある。

旅行ガイド(一般情報)

※本セクションは公開情報をもとに編集者が補足したものです。最新は現地・公式情報で確認してください。

ドミニカ料理の基本のことば

食事の実用情報

参考リソース

今回訪れた場所

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ミックス・エンパナーダス(Mix Empanadas)
Calle El Conde 354, Zona Colonial, Santo Domingo / エル・コンデ通りのエンパナーダ専門店。約30種類のエンパナーダ。