家のキャビネットの一段に、ジャパニーズウイスキーが4本並んでいる。山崎、響、白州、戸河内——前者3本はサントリーのいわゆる「御三家」、最後の1本は広島の中堅蒸溜所が出している玄人好みの銘柄だ。気分や食事に合わせて選ぶが、結論から言うと僕が一番手を伸ばすのは山崎と戸河内。今回はその理由を含めて、4本を紹介してみたい。
山崎 シングルモルト(特に好き)
1923年、サントリー創業者・鳥井信治郎が大阪と京都の境にある山崎峡に蒸溜所を構えたのが、日本ウイスキーの始まりだ。山崎蒸溜所はジャパニーズウイスキーの原点であり、ここで作られた山崎 シングルモルトは今や世界的に名の通ったボトルになっている。
味わいの軸は「フレッシュでフルーティ」。ノーズに洋梨・桃・ハチミツ、そしてサントリー独自に育てたミズナラ樽由来の伽羅・白檀を思わせるオリエンタルな香り。口に含むとふくよかな果実感、長熟ロットになるほど蜜のような甘みと厚みが乗ってくる。料理の前後どちらにも寄り添える、上品なシングルモルトだ。
僕が好きなのは、山崎が「飲み込みのあと」に残す余韻が長いところ。一杯で30分くらい持つので、夜の終わりの一杯にちょうどいい。ノンエイジ(NV)でも十分に山崎らしさは出ているが、流通価格が高騰している現在は、見つけたときに手に入れておくのが現実的だ。
戸河内 シングルモルト(特に好き)
もう一本のお気に入りが、広島県安芸太田町・中国醸造が出している戸河内(とごうち) シングルモルト。サントリー御三家の脇で、地味に強烈な存在感を放つ一本だ。
戸河内が独特なのは「鉄道トンネル熟成」という熟成方式。安芸太田町に残る旧国鉄可部線(廃線)の戸河内トンネルを利用して、年間を通じて気温が安定する地中で原酒を寝かせる。湿度・温度の振れが少ないため、ゆっくりと均一に熟成が進み、日本のウイスキーには珍しい落ち着いた木の香りが乗る。
ノーズはモルティな麦の甘さ、ドライフルーツ、ほのかなスモーク。口当たりはとても柔らかく、サントリー御三家の華やかさとは違う、土と木の質感がある。マイナーゆえに山崎・響・白州よりも入手しやすく、価格もかなり良心的。「ジャパニーズウイスキーが高くて手が出ない」という人にこそ試してほしい一本で、僕にとっては山崎と並ぶ自宅の主軸になっている。
響 ジャパニーズハーモニー
サントリーのフラッグシップブレンデッド、響 ジャパニーズハーモニー。山崎・白州のモルト原酒に知多のグレーン原酒を組み合わせ、複数樽(ホワイトオーク・スパニッシュオーク・ミズナラ・バーボン樽)の表情を「調和(Harmony)」させて作る。
飲み口は名前通りの「調和」。突出した個性ではなく、全体のバランスで魅せるタイプだ。ハチミツ、白い花、グレープフルーツ、ミズナラの伽羅。フィニッシュはきれいに収まる。ストレートで端正、ハイボールにすると食事のあらゆるジャンルと寄り添う万能性が出る。客が来たときに開ける「外しがない」一本だ。
24面体カットの瓶は二十四節気をモチーフにしており、ボトルそのものが工芸品のような佇まい。テーブルに置くだけで場が改まる。
白州 シングルモルト
サントリーの第二蒸溜所、山梨県北杜市の白州蒸溜所で作られる白州 シングルモルト。南アルプス・甲斐駒ヶ岳の麓、標高700mの森に囲まれた立地から「森のウイスキー」の異名を持つ。
味わいは爽やかで軽快。青リンゴ、ミント、ライトピート、白胡椒のスパイス感。山崎の重厚さとは対照的に、すっと体に入る軽やかさが特徴だ。白州ハイボールはサントリーが推している飲み方で、グラスに大きめの氷、白州、強炭酸、最後にミントを叩いて落とす——夏の夕方には最高の組み合わせになる。
個人的には食中酒として優秀だと思っているが、4本のなかでは一番手が伸びにくい。理由は単純で、僕は「ストレートでじっくり」のほうが好きで、白州の本領はやはりハイボール側にあるからだ。客に出すと評価が高い一本でもある。
ジャパニーズウイスキーの面白さは、それぞれが違う日本の風景を背負っていることだと思う。山崎は大阪の竹林、響は工芸の精緻さ、白州は南アルプスの森、戸河内は広島の山あいのトンネル。グラスを傾けるたびに、その土地に少し旅する気分になる。
ジャパニーズウイスキー 背景情報
サントリー山崎蒸溜所(1923年〜)
大阪府三島郡島本町山崎。日本初のウイスキー蒸溜所。創業者・鳥井信治郎、初代マスターブレンダーは後にニッカを起こす竹鶴政孝。桂川・宇治川・木津川の合流点近く、湿度の高い盆地気候がウイスキー熟成に適している。
サントリー白州蒸溜所(1973年〜)
山梨県北杜市白州町。標高700m、南アルプスの伏流水を使用。森林公園としても整備され、見学・テイスティングが可能。山崎の重厚に対し、白州は軽快——コントラストを作るための立地選定だった。
戸河内ウイスキーと中国醸造
広島県廿日市市の中国醸造(SAKURAO B&D)が出すウイスキー。熟成は安芸太田町の旧国鉄可部線・戸河内トンネル(標高約400m)を利用した地下貯蔵庫で行われ、年間を通じて温度が安定するため独特のまろやかさが出る。海外品評会でも複数の受賞歴あり。
ジャパニーズウイスキーの定義
2021年、日本洋酒酒造組合が「ジャパニーズウイスキー」の自主基準を制定。原料は麦芽・穀類・日本国内採水の水のみ、糖化・発酵・蒸留は日本国内、木製樽で3年以上熟成、瓶詰めも日本国内、最低アルコール度数40%——を満たすものに限定。山崎・響・白州・戸河内はいずれもこの基準に沿う。
世界的なジャパニーズウイスキー需要
2010年代以降、World Whiskies Awards や ISC で日本のウイスキーが高評価を獲得し、世界的に需要が急増。原酒不足から山崎12年・白州12年・響17年などが一時休売・終売となり、定価入手が難しい状況が続いている。戸河内のような中堅蒸溜所への注目はその裏返しでもある。
4本ともAmazon.co.jpで入手可能。サントリー御三家は需給逼迫により定価より高めだが、戸河内は比較的良心的な価格で買える。



