1月3日、米軍特殊部隊がニコラス・マドゥロを拘束し、ニューヨークへ移送しました。麻薬密輸をめぐる連邦起訴に基づく電撃作戦でした。その2日後、副大統領だったデルシ・ロドリゲスが暫定大統領に就任します。ベネズエラ史上、初めて女性が大統領の職務を担う瞬間でした。それから5か月。多くの人が期待した「民主化への移行」は、まだ始まっていません。僕はこの間の動きを追いながら、ひとつの言葉が頭から離れませんでした。「移行」と「正常化」は別物だ、ということです。
2番手が1番手になっただけ
ロドリゲスはマドゥロ政権の副大統領でした。体制の2番手が、そのまま1番手の椅子に座った形です。チャベス主義(チャビスモ)を基盤とする政治エリートの顔ぶれは入れ替わっていません。政府機関も、安全保障部門も、国営石油公社PDVSAの指揮系統も、マドゥロ時代の構造をそっくり引き継いでいます。国際危機グループは、起きたのは「取引か、移行か(Transaction or Transition?)」と問い、トランプ政権が民主化を組み込まない取引的な戦略を採ったこと、今回の作戦が政治移行の展望を無期限に先送りしたことを指摘しています。トップの名前が変わっても、その下の組織が丸ごと残っているなら、何が変わったのかという話になります。
「絶対に選挙はやる」の中身
ロドリゲスは2月12日のNBCのインタビューで、自由で公正な選挙を「絶対にやる」と語りました。ただ、いつやるのかというタイムラインは曖昧なままです。米エネルギー長官のクリス・ライトは、選挙と政権移行はトランプ大統領の任期中(2029年1月まで)に起こるだろうと述べるにとどめました。米・ベネズエラ双方の当局者は、実施までに2〜3年かかりうるとの見方を示しています。裏を返せば、最長で数年先という含みです。反体制派の旗手で、ノーベル平和賞を受賞したマリア・コリーナ・マチャドにとって、この状況はかなり複雑です。トランプ政権はロドリゲスを事実上の交渉相手として扱い、マチャドを中心に据えませんでした。誰と組むかという選択が、そのまま民主化の速度を決めていきます。
「ベネズエラを運営する」という言葉
トランプは、米国が一定期間ベネズエラの運営にかかわると宣言しました。石油収入は米国管理の口座を通すよう誘導され、制裁の緩和や資金の流れを使った影響力の行使が続いています。ただ、その「管理」がいつ終わるのか、どんな条件で民主化に進むのかという出口は示されていません。アメリカズ・クォータリーは、ロドリゲスが「正常化という出口」を選んだと分析しました。選挙を急ぐより先に経済を安定させ、国際的な孤立を解く。それが現政権の優先順位だという読みです。
問いは同じ、問う人が変わった
外から民主化を強制するのか、それとも内部から時間をかけて変えていくのか。ベネズエラをめぐる根っこの問いは、マドゥロ時代から変わっていません。変わったのは、その問いを口にする側の顔ぶれだけです。米軍の作戦で大統領が入れ替わり、女性が初めてトップに立っても、PDVSAの組織図も、選挙の日程も、まだ動いていない。5か月という時間は、移行を始めるには十分だったはずなのに、です。
政権の顔は変わったけれど、ベネズエラの制度はまだ何も入れ替わっていません。
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参考リンク
- Normalization Without Transition: Delcy Rodríguez's Playbook | Americas Quarterly — americasquarterly.org
- Delcy Rodriguez sworn in as Venezuela's president after Maduro abduction | Al Jazeera — aljazeera.com
- Venezuela after Maduro: Transaction or Transition? | International Crisis Group — crisisgroup.org
- Opinion | Where Is Venezuela's Democratic Transition? | The Washington Post — washingtonpost.com
- Venezuela's interim leader navigates U.S. demands, Chavista loyalty | NPR — npr.org
※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の解説・私見です。最新の数字・日程・手続きは各国政府や一次情報でご確認ください。引用は最小限とし、出典を明記しています。